うつ病は、薬物療法や認知行動療法など、あらゆる治療を1年以上実施しても約3分の1は寛解しない。こうした難治性うつ病の患者は、回避や不安の傾向が特徴で、回復に不可欠な「生き方の変化」に極度に抗う。我々は、変化への抵抗の原因となる不適切な養育がもたらし得る愛着の問題の改善が必要と考えた。そこで心理療法家を頼りにできることで変化への準備を促進する「安全基地確立面接」の開発を行った。 面接の内容の1つ目は、患者に安全基地を提供することである。これは患者を心理療法家が無条件に信頼し、患者の考えや感情を支持し、自らの尊厳を守る重要性を教育することである。2つ目は、治療的アセスメントである。患者の現在の考え方の特徴や対人関係の持ち方について整理し、その起源となる生い立ちを探求する。3つ目は、患者に安全基地の外で生活する術を伝授する。それは患者の考えや感情を患者と共に家族や周囲の人に伝えることであり、患者がアサーティブに生活できるよう援助することである。 本研究の独自性は、①患者と心理療法家との関係性構築という無形の技術の可視化し、マニュアルを完成させた点と②変化を促進させる心理療法を実施する「準備」に位置する面接を開発した点である。 これまでに文献レビューと15名の心理療法家との複数回の議論の結果、初版の開発に成功した。6名の持続性抑うつ障害被験者に対して1年半の介入を行ったところ、ベックうつ病尺度(BDI-II) が、平均33.5点から14.5点に変化し、一般線形モデルにて有意に低下した(p=0.015)。そして、介入を終了した被験者に「心理療法家のどのような態度によって、安心して頼りにできたか」というインタビューを行い、重要事項法で整理したところ、患者への信頼、患者の考えの支持、尊厳を守る重要性の教育、家族へのアドボカシーなどの項目が得られ、マニュアルの妥当性を確認できた。
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