2021年度は、これまでに収集したデータについて詳細な分析を行った。具体的には、本研究の目的である、(1)就労家族介護者のメンタルヘルスに関連する要因(介護及び仕事における負担とソーシャル・サポート、介護に対する自己効力感など)のうち、エンリッチメントと関連の強い要因を明らかにすること、(2)アクセプタンスと価値に沿った行動(コミットメント)が、役割間葛藤及びエンリッチメントの改善につながるかを明らかにすること、の2点うち(2)について、6か月間隔で行った3回の調査で得られた縦断データを用いて分析を行った。 その結果、役割間葛藤については、アクセプタンスが高い就労家族介護者は低い者と比べて「家庭から仕事への葛藤」が少なく、介護および仕事の負担が増えても役割間葛藤は増加しないことが示された。また、コミットメントが高い就労家族介護者は低い者と比べて役割間葛藤が少なく、介護および仕事の負担が増えても役割間葛藤が増加しないことが示された。エンリッチメントについては、アクセプタンスは有意な関連が見られなかった。一方で、コミットメントが高い就労家族介護者は低い者と比べて、「仕事から家庭へのエンリッチメント」及び「家庭から仕事へのエンリッチメント」の双方が高いことが示された。また,コミットメントが低い就労家族介護者は、介護に対する私的なサポートの満足感が高まるほど、「家庭から仕事へのエンリッチメント」が低下することが示された。 本研究で得られた成果から、認知症の人の就労家族介護者の役割間葛藤の緩和及びエンリッチメントの向上には,アクセプタンス&コミットメント・セラピーに基づいた心理支援が有効であることが示唆された。
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