研究課題/領域番号 |
18K13361
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
大隅 尚広 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部, 研究員 (50737012)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 責任 / 行為主体性 / 意思決定 / 道徳 / 顔表情 / 感覚抑制 / 事象関連電位 / 統合失調症 |
研究実績の概要 |
司法において被告の責任能力の有無が問われる際に着目される心理的要件の1つに弁識能力がある。弁識能力とは,要するに,事物の善悪や行為の意味・性質を認識する機能のことである。行為の意味や性質に関する認識については,自らの行為によってどのような結果が生じるのかを予測する機能と言い換えることができる。本研究の目的は,このような機能の働きを客観的にとらえる指標の開発に向けて,自らの行為が引き起こした社会的事象に対して特異的な脳活動パターンを明らかにすることである。 令和元年度においては,他者の否定的な顔表情をとらえた際の脳活動の特徴について,事象関連電位を測定して検討した。他者が表出する顔表情の種類にはその観察者の行動との関連が想定されるため,自らが引き起こした他者の顔表情に対する脳活動の特異性を明らかにするために,顔表情に対する事象関連電位の基本的特徴を把握しておくことは重要である。特に,怒りの表情は威嚇の信号であり,向けられた相手の行動の抑制を訴える機能が想定される。そこで,顔表情が反応抑制につながる過程の脳活動を明らかにするために,表情の種類(怒り,恐怖)と視線の方向(正面,逸脱)が異なる顔刺激を用いたGo/No-Go課題を実施した。その結果,視線が正面を向いている怒りの表情において,他の条件よりも反応抑制が促進され,また,事象関連電位については反応抑制との関連が指摘されているN2とP3が大きいことが示された。このような怒り表情の影響は顔に注意を向ける場合においてのみ見られ,視線に対して注意を向ける場合には見られなかった。このことから,怒り表情への意識的注意が進行中の行動の抑制に関わる脳活動を促進することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では,行動の選択によって表出される他者の顔表情に対する脳活動ついて具体的に検討する予定であったが,顔表情が行動に影響する過程の脳活動について検討するに留まった。この研究の遅れは,所属機関の任期満了にともない次年度以降の新たな研究環境の確保にエフォートが割かれたという明確な原因がある。しかし,顔表情の種類と行動の関連を把握するための成果が得られたことから,この成果に基づいて今後の研究を展開し,より精緻な仮説の下で研究を実施することができる見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の実験のデザインは既にできているため,その予備実験と本実験を十分に行うことができる環境を新たな所属先で構築することが必須かつ重要である。具体的には,脳波の測定のための生体信号計測装置を設置する実験室,分析作業を行うためのマシンとワークスペース,実験参加者(1つの実験につき30名程度)の募集ルートなどが必要であり,これらを早急に確認,確保する。これらが整いさえすれば,予備実験を行って実験デザインを洗練させ,研究目的の達成に向けて本実験を行うことができ,研究を大幅に進展させることができると考えている。しかし,十分な環境が整わない可能性も考慮し,やむを得ず外部研究機関の研究者の協力を得ることも想定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に,予定よりも規模を縮小し,既存の機器を用いて実施できる研究を行ったことにより,経費が節約された。2年目である当該年度は配分された金額を使い切っている。したがって次年度使用学が生じたのは,初年度に節約された金額がほぼそのまま残っているためである。 次年度使用額については,所属機関の変更にともなう新たな研究環境や実験設備を整えるために使用する予定である。
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