研究実績の概要 |
ヒトが知覚する時間は心理的時間と呼ばれ,時計によって示される物理的時間とはしばしば差異が生じる.心理的時間の速度は脳内の神経伝達物質や脳の機能的結合の変化を反映するため (Coull et al., 2012),神経・精神疾患を引き起こす脳内の変化と時間情報処理の関連を解明することで,疾患によって発生する精神病症状の発生機序の解明につながる可能性がある. 精神疾患と知覚情報処理の関連については,精神疾患症状がこれまでの経験から学習された予測に異常な重みづけがなされることで引き起こされるという仮説が提唱されている (Friston, 2016).このような学習された予測は心理的時間にも影響している(Roach et al., 2017).このような予測は心理的時間にも影響しているため,精神疾患症状は心理的時間の速度と学習された予測の重みづけの変化の両方と関連する可能性がある. 本研究では神経・精神疾患において心理的時間の速度が変化することを示した (Ueda et al., 2019; Inagawa, Ueda et al., 2020).また,学習された予測の重みづけの変化と統合失調症症状との関連を行動課題を用いて検討した.その結果,統合失調症群は中心化傾向が強く,知覚推論における予測の影響が強いことを明らかにした (Ueda et al., 2022).また,計算論的モデルに基づいたシミュレーションの結果,健常者ではこれまでの経験に基づく統計的な予測と,直前に行ったトライアルに基づく予測を統合した推論を行うのに対し,統合失調症患者ではよりこれまでの経験に基づく統計的な予測を用いた戦略を採用している可能性が示唆された.この結果は2023年の国際学会Timing Research Forum (TRF3) にて発表予定である.
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