本年度は,昨年度行ったシミュレーション研究をもとに,実際に参加者を募って実験を行った。参加者はモデルフリーとモデルベースの意思決定が必要となる2段階意思決定課題を行うとともに,精神疾患関連の質問紙への回答を行った。得られた行動課題の選択データから情報処理過程の個人差を推定するのに,忘却過程を取り入れた新しい強化学習モデルを用いた。推定された学習過程のパラメータと,精神疾患の関係を検討した結果,従来の計算論モデルには含まれていなかった忘却の強さを抽出するパラメータが,うつやストレスなどと関係している可能性が明らかになった。これらの結果は国際誌にまとめるとともに,カナダで行われたら強化学習関連の国際学会(RLDM: Reinforcement Learning and Decision Making)にて新しい手法の報告を行った。
また,より安定した知見を得るためにクラウドソーシングを利用して多くの参加者を募るオンライン実験も実施した。この実験では,ダミー問題等を入れて,実験にまじめに参加していないことが確認された参加者は分析対象から除外した。結果,約500名の有効データを得ることができ,各参加者の学習過程のパラメータや意思決定における注意バイアスと,精神疾患関連の質問紙(抑うつ,不安障害,強迫性障害,自閉症などに関連する質問紙)スコアとの関係を検討した。興味深い結果が得られているが,現在も引き続き解析を行っているところである。 さらに,強化学習モデルによって推定されるパラメータの個人内安定性や,精神疾患スコアの時間的変化との対応を確認するため,約2か月の期間を空けて2回のオンライン実験を実施した。こちらについても現在解析を行っている。
|