研究課題
本研究課題の目的は周辺視における画像特徴の空間的平均化現象の時間特性を調べる事で空間的平均化の計算過程を心理物理学的手法を用いて明らかにし、入力画像としては空間的に荒いはずの周辺視野で、どうして中心視野と同様に一様で明瞭な画像が知覚可能なのかの仕組みの理解を進めることである。この目的のために、周辺視野の見えに関わる知覚実験、および脳機能や脳構造測定の研究などを行った。2018年度は特に二つの物体間の距離が周辺視野に呈示された場合に中心視で呈示されるよりも短く見える現象を中心に取り組みその詳細を調べた。年度の前半ではこの位置平均化現象が生じる背景メカニズムについて検討した。現象的に二つの位置を平均化させるには、実際に位置情報が脳内で平均化されて表現されるという可能性の他に、2点の距離を計測する仕組みが中心視と周辺視で出力が異なる可能性も考えられる。近年、ドットテクスチャの知覚メカニズムと二点間の距離の計測メカニズムが部分的に共有されている可能性が指摘されていることから、中心視と周辺視でのドットテクスチャの見え方を調べた。その結果、周辺視ではドットテクスチャの提示範囲が狭く見えると同時に、密度は中心視野に比べ疎に見えることを見出した。一見矛盾することが同時に生じたこの結果は、位置の平均化現象が距離を計測する仕組みの過小評価によるものである可能性を示唆している。年度の後半ではこの位置平均化現象の時間特性を二点の呈示タイミングを操作することで調べ、二点がある程度時間的に離れて呈示されても生じることを見出した。興味深いことに、一方が呈示されてもう一方が提示されるまでに300ms程度時間差があっても位置がずれて見えることがわかった。一方、テクスチャの知覚実験が示唆するような距離の計測でこの結果を説明できるかどうかはまだ不明であり、この点については2019年度以降の課題となる。
2: おおむね順調に進展している
空間的平均化現象について、大きく二つの知見を得ることができた。ドットテクスチャの研究は8月に行われたEuropian Conference on Visual Perceptionにおいて発表を行った。また、呈示タイミングを操作した研究は1月に行われた日本視覚学会にて発表を行った。これらの学会発表にて、国内外の研究者らと交流および議論を行い、有意義な意見を得ることができた。また、慶應義塾大学やSussex 大学でアウトリーチ活動も行い、好評を得るとともにいくつか重要な指摘をいただくこともできた。また、周辺視野の見えが大きく欠損している網膜変性疾患に関する視機能と脳構造の可視化に関する研究の論文を出すことができた。一方、交付された予算では申請時に予定していた装置の購入が難しいことが判明し、計画を遂行するための必要な装置の再選定に時間がかかり、それを必要とする実験を進めることが遅れた。
2018年度までの研究成果に基づき論文執筆を進める。また、2018年度にセットアップを始めた実験系を利用して、位置の平均化現象の眼球運動測定を行う。眼球運動測定実験が落ち着いた後に、方位情報の平均化効果の時空間特性と知覚、および眼球運動測定実験を行う。そして、複数の画像特徴の平均化現象とそれらが知覚系、運動制御系へ及ぼす影響を総合的に比較することで研究課題の総括を行う。
実験協力者への謝金を計上していたが、進捗状況に記載した通り実験機器の選定に時間がかかり、研究計画の一部が遅れたことと、実験を部分的に研究代表者自身が行ったため、謝金支払いが計画よりも少なくなった。また、学会参加等の旅費を別の予算から使用することができたため、計上しなかった。引き続き、2019年度分の実験協力者への謝金と旅費に対して支出予定である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Brain Structure and Function
巻: 223 ページ: 3889-3990
10.1007/s00429-018-1702-5