研究実績の概要 |
マウスの音声コミュニケーションは、病態モデルの遺伝子改変マウスなどでも解析がなされ、近年注目されている。それにも関わらず、神経メカニズムが不明であるどころか、各発声内容に含まれる「意味」も不明瞭なまま用いられてきた。しかし、申請者は、個体の性的動機づけの強さに応じて発声回数が増加するとともに、発声内容も複雑化することを見出している。このことは、個体差として観察されるだけでなく、個体内変動としても観察される。つまり、同一個体でもその時々で発声パターンが変化する。申請者はこれまでに、発声の多い個体では脳内報酬系である中脳腹側被蓋野のドーパミン神経が活性化していることを組織学的に確認し、その際、音節が複雑化することを観察している。発声が生じ音節が変化する際のドーパミン神経の活動を光遺伝学的に操作し、その際に、マウス超音波発声が変化することを観察することで、情動状態の表出であることを示すことを本研究の目的とした。これまでに、 神経操作のタイミングと音声を同期記録する方法について模索し、デバイスの開発とシグナル集録方法を確立した。 また、前年度にも齧歯類超音波音声の自動解析システムが共同研究により完成し、これを公開した。しかし、これら実験系を確立したものの、申請当初の目的であったドーパミン神経系による制御を実証するための実験を完遂することはできなかったため、この仮説検証は今後の課題となる。一方で、雄から雌への発声が単に新規個体に対する興味ではないことや(Sasaki et al., 2020)、ナルコレプシーで見られる脱力発作を起こす遺伝子改変マウスにおいて雌と対峙した際に起きる発作の直前には発声が多くみられることなどを見出し(Kuwaki & Kanno, 2021)、マウス求愛発声が強い情動表出であることや社会的文脈に異存して変化することを示すなど、成果があった。
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