研究実績の概要 |
2019年度は,高齢者を対象とした空書実験に関する論文がPLOS ONE誌から発表された(Itaguchi et al. 2019)。研究では,高齢者26名に対して空書の促進効果を検証する行動実験をおこなった。実験の結果,教示なし状態では100%の確率で空書が自発すること,空書を許可する条件においては,空書を禁止あるいは関係のない指運動を遂行した条件よりも有意に漢字構成課題の成績が高くなることが明らかとなった。これらの結果はこれまでの若年者を対象とした研究(Itaguchi et al. 2015, 2017)と一致している。さらに,年齢,MMSE,教育歴との偏相関係数を計算したところ,教育歴と空書効果のみに有意に負の相関があった。すなわち,教育歴の短い人において,大きな空書の認知課題促進効果が観察された。 脳損傷患者(中等度感覚性失語患者)を対象とした空書実験の結果は現在投稿中である。この研究では,失読を呈する患者においても,空書の視覚的フィードバックが認知課題遂行を促進することを示した。ただし,この実験では,空書は漢字の音韻的な情報を引き出すことはせず,視覚的な想起のみを促進する可能性が示唆された。この知見は,これまで提案してきた空書の視覚処理の促進仮説に合致するものである。 さらに,指を他動的に動かすロボットシステムを確立した。本システムを用いて,指を他動的に動かすことにより,意図を伴わない場合における空書の効果を検討することができる。現在このシステムを用いて空書の課題促進効果を検討中である。
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