高速プロジェクタ(最大リフレッシュレート5000 Hz)による情報密度の高い動き(高密運動)を観察すると「ぬるぬる」のような滑らかな運動質感(滑動感:かつどうかん)が知覚されることを見出だした.本研究では,高密運動とそこから生じる質的知覚に着目した. 令和4年度は,リフレッシュレートの条件を増やし,Duty比と動きの滑らかさの知覚についての詳細な検討を実施した.具体的には,令和3年度に実施した実験で用いたリフレッシュレート以外に,60 fps相当,80 fps相当のフレームレート条件を追加した.各フレームレート条件において,映像1コマ内のオンオフの比率を操作することでDuty比を定義した.フレームレート条件ごとに,令和3年度の実験同様,シェッフェの一対比較により最も滑らかに知覚されるDuty比について検討した.その結果,いずれの条件においても有意な差は認められなかった.また「ぬるぬる」などの動きのオノマトペの印象と,運動の印象の相関を求めたところ,「ぬるぬる」の他にも「すーっと」とも相関が見られたが,Duty比による一貫した傾向があるとは言い切れなかった.令和3年度の研究との一貫性が見られなかった要因として,刺激を変更した点が挙げられる.令和3年度は円刺激の円軌道運動を用いたが,令和4年度は,試行数(実験負荷)削減のため,画面上下に配置された正方形が水平方向に反対の位相で往復運動する刺激を用いた.しかし,これらが感覚間協応(ブーバ・キキ効果)と対応し,令和4年度の実験においては直線的な刺激の直線運動であったために「すーっと」とも相関が見られたことが予測できる.このことは,運動の滑らかさには,提示されるコンテンツ自体の特徴も影響することを示唆するものである.
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