研究実績の概要 |
本研究は、マルチメソッドアプローチを用いて、情動興奮が認知機能に及ぼす影響を解明することを目的とした。これまでの心理学研究では、感情・情動興奮によって認知成績が下がることもあれば、上がることもあった。しかし近年、その矛盾した心理学結果を説明する神経科学モデルが提唱された。本研究計画では、そのモデルから生み出される予測を検証し、4つの国際雑誌(Nature Human Behavior; Cerebral Cortex; Cognition;Attention,Perception & Psychophysics)に発表した。まず、上述のモデル(Mather et al., 2011)の予測は「優先的に処理されている情報(活性値が高い情報)の処理は、興奮覚醒時には更に促進される。一方で、興奮覚醒時に優先的に処理されていない情報は、興奮覚醒時に処理が抑制される」というものである。つまり、情動興奮によりsignal-to-noise比が更に増すという予測が成り立つ。これを心理実験(視覚探査課題)にて検証した結果、反応時間という指標から予測を支持する結果が得られた。また、モデルによると、高齢者はGABAなどの抑制機能が低下しているため、処理の優先度に関わらず、興奮覚醒によって処理が促進されるという仮説が成り立つ。これを検討するために、高齢者の成績と比べたところ、仮説を支持する結果が得られた。上記の結果は、神経イメージング研究によっても支持され、若者および高齢者において興奮・情動覚醒した際の脳部位の活性値は、上記の反応時間と同じパタンが得られた。最後に、モデルが仮定する神経伝達物質メカニズムを導入した計算機モデル(AI)を構築した。上記の研究は視覚探索課題であったが、次に記憶課題へとモデルを拡張することも当初研究計画となっており、この結果はCognition誌にて発表された。
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