本研究課題「注視行動から探るイヌとヒトの交流技能の獲得過程」は、イヌの注視行動を介した対人交流技能に着目し、その獲得過程について実験心理学的手法により明らかにすることを目的とした。 本年度は研究期間を延長し、以下の課題に取り組んだ。まず、「研究A:イヌの対人注視行動と対人交流技能の関連性」については、ヒト側の視線交流に関する認知的特徴を調べた研究成果として、イヌの眼の色の違いによってヒトの抱く感情や印象が異なることを明らかにした。同様の研究内容をウェブ版の調査を用いて別の研究参加者に対して実施したところ、質問紙調査と同様の結果が再現されることを確認した。 次に、「研究B:視線接触訓練の経験がイヌの対人交流技能の発達に与える効果」については、昨年度に確立した実験系に基づいて、複数のイヌに対して数量弁別に関する学習トレーニングを行った。その結果、(1)多くのイヌ(家庭犬)は数量弁別学習が成立すること、(2)数量弁別学習の成績には顕著な個体差がみられ、その背景には認知的柔軟性に関する行動形質が関与する可能性があること、という点が明らかになった。 一連の研究で得られた成果は、イヌの対人交流技能の基本的な行動や認知の特徴についての基礎的な研究データを提供するものと位置づけられる。また、イヌの注視行動に関する行動特性とその個体差を実験的に評価するための手法の開発にも寄与するだろう。今後は、イヌの視覚コミュニケーションの学習過程を明らかにするための大規模調査を進めていきたいと考えている。
|