研究実績の概要 |
近年,視覚的長期記憶に関する研究が急速に進んでおり,シーンやオブジェクトなどの視覚刺激の詳細な情報が長期にわたって保持されることが明らかになっている (e.g., Blady, Konkle, Alvarez & Oliva, 2008; Hollingworth & Luck, 2008) 。しかしながら,視覚的長期記憶に比べ聴覚的長期記憶に関する研究は十分に進んでいるとはいえず,英語習得については「日本語母語話者が英語音声の聴覚表象をどのように獲得していくか」という基本的な問いに対しても,いまだ明確な答えが得られていない。本研究は,日本語母語話者における日本語音声と英語音声の記憶表象形成プロセス,および,聴覚表象の性質について検討することにより,聴覚的長期記憶の性質の解明をめざすものである。 研究初年度である平成30年度は,聴覚的長期記憶の基本的な性質を明らかにすることを目的とし,日本語 (母語) の音声の記憶特性に関する検討を行った。本研究では,長期的な記憶の検出に優れる間接再認手続きを利用した (寺澤・太田, 1993) 。間接再認手続きは,第1セッションにおける刺激の学習の効果を,数週間後に実施される第2セッションの再認テストの成績によって評価するというものである。刺激として低頻度語(実験1),および,無意味綴り(実験2)を用い,偶発学習条件下における音声情報の長期持続性について検討した結果,偶発学習事態 (記銘意図のない状況下) においてたった2回呈示された音声情報(低頻度語,無意味つづり)の記憶が3週間後にも保持されていることが明らかになった。この結果は,聴覚的長期記憶が視覚的長期記憶と同様に非常に頑健であることを示唆するものである。
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