研究課題/領域番号 |
18K13382
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
甲斐 亘 東北大学, 理学研究科, 助教 (00804296)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 代数的サイクル / 高次圏 / モジュラス / ホモトピー / Chern類 / Chow群 / K群・K理論 / モチーフ |
研究実績の概要 |
本年度は、まずホモトピー論の言語の習得に励んだ。∞圏や Segal のガンマ空間が便利な道具でありうることが分かった。 次いで、代数的サイクルのなす複体の高次圏的構造を明らかにすることに取り組んだ。これは、サイクルの複体の持つ積が、導来圏において可換であるという事実を精密化するはずの構造である。「研究の目的」に記した、Chern 類の積との可換性、Grothendieck-Riemann-Roch 公式、Chern 類のスペクトラムの圏への持ち上げという目標のいずれにも寄与すると見込まれるものである。これの具体的な実現方法として、E_∞ 環やガンマ空間が想定されていたが、とりあえずガンマ空間の枠組みを試すことにした。 成果として、或る moving lemma を証明することで、代数的サイクルの複体だけではなく、それを誘導する単体的アーベル群を用いても問題を定式化できることが明らかになった。その上で、Chern 類写像をスペクトラムの写像に持ち上げるに十分なガンマ空間構造を代数的サイクルに与えることに着手した。しかし、これにはいくつもの束縛を同時に満たすような座標変換を発見するような作業であり、目的を完遂するには時間がまだ足りなかった。ただし、少なくとも球面スペクトラムを可逆化することを許した圏でならば持ち上げられる見込みまでは立った。 そのほか、アフィン正則スキームと有効因子の組の、K_0群とモジュラス付き Chow 群の比較を岩佐氏と考察し、指数有限のねじれを除いて同型であることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホモトピー論の習得は順調にできた。単体的集合の圏に入る Joyal モデル構造における fibrant な対象が∞圏であることや、Cartesian ファイブレーションが従来の圏のファイブレーションの自然な一般化であることを理解するに至った。また、connective スペクトラムの圏と Segal のガンマ空間の圏の Quillen 同値を理解し、ガンマ空間を構成する実践的な手法を学んだ。 代数的サイクルにガンマ空間構造を与えることに取り組む中で、問題への直観的な理解が進んだ。Chern 類写像の或る整合性を示すホモトピーを、高次(=1次以上の全ての次数)の部分まで完全に明らかにし書き下すことが概ね問題である。その際、インプットである複数個のデータの並べ替えに関する任意性をどう処理すべきか現時点ではっきりできていない。この任意性を無視することと、球面スペクトラムを可逆化することが、Segal のガンマ空間の理論により対応すると見られる。このような理由で、球面スペクトラムを可逆化する犠牲を払うことでならば Chern 類写像を持ち上げられる可能性がある。 代数的サイクルに高次の構造を与える作業に予定よりも早く取り組み始めることができたのは評価できる一方、問題の真の難しさも浮き彫りになったといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目は予定どおり代数的サイクルにガンマ空間構造を与える作業を続行する。併せて、Kahn-齋藤-山崎やBinda-齋藤の理論の習得にも努める。アフィン正則スキームと有効因子の組の場合での考察から、連接加群のフィルトレーションに着目した有用なテクニックを見つけることができたので、これを K_0 以外の次数の K 群に拡張できないかどうかも並行して考えてゆく。
|