研究課題/領域番号 |
18K13382
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
甲斐 亘 東北大学, 理学研究科, 助教 (00804296)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高次Chow群 / モジュラス / モチーフ / スペクトル系列 / 移動補題 / ガンマ空間 / Chern類 |
研究実績の概要 |
2019年度は宮崎氏と共同で、Andrei Suslinの等次元化の移動補題の別証明を発見した。移動補題とは、多様体の中に与えられた部分多様体を、一定の良い性質を満たすように修正するタイプの主張である。この別証明の手法は、本研究で考えているモジュラス付きの代数的サイクルに対しては、Suslinの方法よりも良い結果を与える。ただ、これは中間的結果で、最終的目標に結びつけるにはなお努力を要する。 モジュラス付き高次Chow群と相対K群の比較のうち、0次部分については岩佐氏との研究によりアフィンな状況で満足のいく結果が得られていた。その後証明手法も整理できた。これをアフィンに限らない多様体に広げ、0次とは限らない高次の相対K群に拡張したい。そのためには、群レベルで行っていた議論を、なるべく空間レベルで行う必要がある(そして全ての議論が終わった後に初めてホモトピー群をとって、群に関する主張を引き出したい)。そのための議論を、高次圏の技術の習得と並行しておこなった。解決すべき課題はまだ多いが、モジュラス付き高次Chow群から相対K群へ向かうスペクトル系列を構成するための大まかな戦略が描けるようになった。ここをしっかり理解できれば、本研究の主目標であるChern類の理解にも役立つ。 ムンバイのAmalendu Krishna氏を訪ねた際にもスペクトル系列構成のための議論をおこなった。氏との議論から、ある移動補題を示せると大きな前進になりうることが明らかになった。訪問中にこの移動補題を証明するためのアイデアが得られ、帰国後にきちんとした証明を書くことができた。ただ、移動補題の具体的な主張は今後のなりゆきに応じて微妙に修正しなければならない可能性が十分あるので、日の目を見るまでには時間がかかるかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
サイクル複体に、その積構造の背後にあるようなガンマ空間の構造を与える試みは、2018年度に一旦できたかに思われたが瑕疵がみつかり、以後それを修正するアイデアが得られていない。2019年度はモジュラス付きモチーフ導来圏を習得する計画であったが、基礎理論を記述したある論文において、欠陥が知られていた。年明けごろまで、修正できたという報が入っていなかった。その間真剣に習得に取り組むのを控えていたため、習得は進んでいない。 ただ、モジュラス付モチーフ理論が理想的な状態に持っていけたとして、そこでの計算に有用そうな移動補題をひとつ示すことはできた(上述の宮崎氏との研究)。また、スペクトル系列を構成する試みを通じて、高次圏の手法の使い方に習熟したり、連接層の或る種のフィルトレーションの振る舞いを調べることでK群の考察と代数的サイクルのモジュラス条件がより自然に結びつくことを観察できたりした。
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今後の研究の推進方策 |
モジュラス付き高次Chow群から相対K群へのスペクトル系列の構成は、完成すればモジュラス付きChern類の種々の性質を示すことよりもインパクトが大きいし、相互に関連している話でもあるので、引き続き周辺の研究者とも協力しながら考えていく。モジュラス付きモチーフ導来圏の基礎理論がしっかり完成したという報が入ってきたので、これの習得にも本腰を入れる。公衆衛生上の危機の影響がいつになったら収まるか分からないので研究活動も制約を受けるが、手元に材料が十分にあって着手できることから進めていく。サイクル複体のガンマ空間構造などの、今まで試してうまくいかなかった小テーマにも機を見て再挑戦する。
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