最終年度である2023年度は、数体の素元の組合せ論を有理点のHasse原理に応用する研究と、Suslinの移動補題の別証明を構築してモジュラス付き代数的サイクルに応用する研究をした。 有理点のHasse原理とは、数体 K 係数の代数方程式が、K のさまざまな完備化の中で解を持つと仮定すると、じつは完備化する前の K の中にも解を持つという現象のことを言う。この現象は起こる場合と起こらない場合があり、どちらの例を新たに見つけても、意義のある成果と言える。本研究で、大まかに言って、与えられた多様体から射影直線へ射があり、そのファイバーがHasse原理を満たすと既に知られているような場合、もとの多様体自体もHasse原理を満たしているという定理を示すことができた。この定理は有理数体 Q 上では知られていた。数体で証明するために、素数の組合せ論についての定理を数体の素元の組合せ論の定理に拡張した。 Suslinの移動補題の別証明は2019年には既に本質的なアイデアが出来ていた。パンデミックもあり仕上げる機会を見失いかけていたので、今わかっていることだけをまとめて発表するに至った。この別証明を用いると、宮﨑弘安氏と筆者がSuslinの原証明をモジュラス付き代数的サイクルに適用して得ていた結果(2017年度)で、モジュラスを厚くする極限を取る必要があったのが不要になる。 研究期間全体では、このほか別の移動補題を示して P^1 不変層に関する一定理の証明に貢献した(小田部秀介、山崎隆雄両氏との共同研究)、アフィン正則スキームにおいてはモジュラス付き周(Chow)群と相対 K_0 群がねじれを除いて同型であることを示した(岩佐亮明氏との共同研究)などした。本来はこの同型定理を深化してモジュラス付き高次周群と高次相対 K 群の比較に進みたかったが、期間中には力及ばなかった。
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