研究成果の概要 |
K3曲面の周期写像を用いて保型写像を構成し,その整数論的な性質を明らかにすることを目指して研究を進めた.本研究で得られた結果により,整数論で重要なHilbertモジュラー形式,Siegelモジュラー形式,Hermiteモジュラー形式を,格子偏極K3曲面の周期写像を用いて統一的に理解することができるようになった.また,符号数(2,4)や(2,18)の二次形式に付随する直交群をモジュラー群とするようなIV型有界対称領域上の保型形式を,K3曲面の周期を用いることで明示的に構成した.更に,いくつかの場合においては構成された保型形式をテータ関数という重要な特殊関数で明示的に表示した.
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研究成果の学術的意義や社会的意義 |
楕円曲線は19世紀以来の数学で中心的な研究対象であった.例えばフェルマーの最終定理は楕円曲線と保型形式の研究から証明された.そのような純粋数学における意義のほかに,現在の社会においては,楕円曲線は情報技術や暗号などで実際の応用を持つに至っている.その応用を支えているのは楕円曲線が持つ整数論的な性質である. 今回の研究ではK3曲面という代数多様体における周期と保型形式の関係を明らかにした.K3曲面は楕円曲線を高次元化したものと考えることができる.今回の研究は,楕円曲線における周期の性質をK3曲面に自然に拡張しようという動機に基づく.今回の結果が将来多方面に応用されることを期待している.
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