研究課題/領域番号 |
18K13393
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
田坂 浩二 愛知県立大学, 情報科学部, 講師 (30780762)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 多重ゼータ値 / モジュラー形式 / Broadhurst-Kreimer予想 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、多重ゼータ値の代数構造とモジュラー形式との関係(多重ゼータ値のモジュラー現象)を様々なアプローチで解析することにより20年以上未解決であるBroadhurst-Kreimer予想の理解を深めること、および複シャッフルリー代数といった多重ゼータ値に付随する代数構造を明らかにすることである。 今年度の結果のひとつとして、2重Eisenstein級数を用いて深さ2における多重ゼータ値のモジュラー現象の新たな解釈を得た。これは、Hecke固有形式の2重Eisenstein級数による一意的な分解を与えるという結果で、2006年のGangl-Kaneko-Zagierにより得られた2重ゼータ値とモジュラー形式の明示対応に関する結果にある種の精密化を与える。系としてHecke固有形式のFourier係数の明示公式が得られるなど、モジュラー形式への応用という面でも興味深い結果となっている。また、多重ゼータ値の代数構造のひとつと思える安定導分代数におけるIhara予想(生成元の合同関係式に関する予想)は、多重ゼータ値に合同関係式があることを彷彿とさせるが、今回の結果から、Ramanujan合同式に発想を得た2重ゼータ値のある種の合同関係式が得られることも観察できる。この2重ゼータ値の合同関係式は、Ihara予想の新たな解釈につながるのではないかと期待できる。 複シャッフルリー代数については、F. BrownとJ. Ecalleによる極化複シャッフルリー代数の元の構成方法の比較を行ない、両者が本質的に異なる構成だということをNils Matthes氏との共同研究において明らかにした。両者の構成方法を一般化するための最初の一歩といえよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
深さ2の場合のモジュラー現象の新たな解釈は、深さ3以上のモジュラー現象の研究へのヒントになりえる結果であったし、今回、観察した合同関係式のような新しい現象はさらなる研究の方向性を期待させる。また、複シャッフルリー代数の研究については、EcalleとBrownによる独立した研究を同じ多重ゼータ値の枠組みで整備することができ、彼らの構成の一般化に向けて良い足がかりになったように思う。
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今後の研究の推進方策 |
モチビックリー代数や複シャッフルリー代数などの研究とも関連するので、深さ2の場合に得られた合同関係式とIhara予想との関係を研究する。また、深さ3以上のモジュラー現象を理解すべく、深さ2で得た結果を3重Eisenstein級数に拡張することを考える。これについては、博士論文などで利用した技術を用いて、カスプ形式と3重Eisenstein級数の関係を数値実験などから明示予想をたて、証明する。また、EcalleとBrownによる極化複シャッフルリー代数の元の構成の一般化に向けて、数値実験などを行い、方向性を定める。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張費としても物品購入費としても微妙な額であったため、次年度に繰り越した。次年度の予算とあわせて、旅費などに使う予定である。
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