本研究の目的のひとつは,多重ゼータ値の代数構造と楕円モジュラー形式との関係性に関する問題の解決および新たな現象を見出すことである。具体的なアプローチとして,多重Eisenstein級数や多重モジュラー値,複シャッフルリー代数の研究を行った。多重Eisenstein級数については,昨年度の研究によって2重の場合にモジュラー形式と多重ゼータ値の関係式の明示対応を述べたGangl-Kaneko-Zagier (2006)の結果をモジュラー形式に持ち上げることができるという結果が得られ,今年度論文が出版された。一方,多重Eisenstein級数の代数構造については,いくつか数値実験を行ったが,期待していた微分に関する構造は明らかにできなかった。多重モジュラー値について,8月に専門家のF. Brown氏(Oxford大学)を訪ね情報交換を行った。このときの議論をもとに,2重モジュラー値の生成系に関する観察が得られた。複シャッフルリー代数について,極化版を考えることによりF. Brown氏のZeta elementの明示公式を与える試みの拡張を行った。 レベルNの合同部分群に対するモジュラー形式と多重ゼータ値との関係解明に向けた研究にも着手した。数値実験を行う道具として,有限多重ゼータ値の理論を分子に1の原始N乗根にした多重L値に一般化した。結果はプレプリントにまとめて投稿中である。今後はここで得られた道具を使って,さらなる観察を行う。
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