研究実績の概要 |
本研究では,正標数の関数体上の無限進多重ゼータ値とv進多重ゼータ値(vは関数体の有限素点),およびそれらに関連するt加群やtモチーフについて詳しく調べた.研究期間を通して得られた結果は,大きく分けると以下のようになる.(1), (2), (3), (5)は前年度までの実績である.(4)については証明自体は前年度に得られており,本年度はその結果を論文にまとめる作業を行った. (1) 以前のChieh-Yu Chang氏との共同研究により,無限進多重ゼータ値が張る空間からv進多重ゼータ値が張る空間への自然な線型写像Fの存在性が得られていた.本研究期間ではこの結果をまとめた論文の改訂作業を行い,論文が雑誌に掲載された. (2) 線型写像Fの存在性の証明では,無限進およびv進多重ゼータ値がt加群の対数関数のある座標に現れることが重要であったが,他の座標についての詳細は分かっていなかった.本研究期間ではChang氏およびNathan Green氏と共同で,この全ての座標を無限進多重ゼータ値の持ち上げであるAnderson-Thakur seriesを用いて明示的に記述するという結果を得た. (3) Chang氏およびYen-Tsung Chen氏と共同で,上記の線型写像Fが積と可換であることを示した.これにより,無限進多重ゼータ値の間に成り立つ代数的な関係式が,対応するv進多重ゼータ値の間でも自動的に成り立つことが導かれる. (4) Chang氏およびChen氏と共同で,無限進多重ゼータ値が張る空間の基底を決定した.具体的には,Carlitz多重ポリログに付随するtモチーフの構造を詳しく調べることで,Thakurにより基底の候補として挙げられていた無限進多重ゼータ値が実際にこの空間の基底になることを証明した. (5) 整数論サマースクール「多重ゼータ値」の世話人の一人を務めた.
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