本研究の目的は、自由ループ空間の有理係数ホモロジーの構造解析である。今年度は、自由ループ空間に関するCartan calculusの研究を行った。古典的なCartan calculusの例として、滑らかな多様体のde Rham複体上に定義される、Lie微分と内部積が挙げられる。それらは、多様体上のベクトル場に付随して得られるderivationであり、カルタン公式と呼ばれる恒等式を満たす事が知られている。FiorenzaとKowalzigはこの構造を定式化し、homotopy Cartan calculusの概念を与えた。 それを踏まえて、まず栗林勝彦氏、若月駿氏、山口俊博氏との共同研究で、de Rham複体のHochschildチェイン複体上のhomotopy Cartan calculusの構造を与えた。更にその幾何学的表現を、自由ループ空間のコホモロジーへのLie代数作用として与えた。また一方で、共同研究で構成した自由ループ空間上のCartan calculusとストリングトポロジー理論の文脈で登場するループ積とループ括弧積と呼ばれる代数構造との関係性について考察を行った。その結果、Lie微分とループ積、及び内部積とループ括弧積に関する公式を与える事に成功した。またその応用として、自由ループ空間のホモロジーのHodge分解と呼ばれる直和分解に対してループ積がどのように振舞うのかを、非単連結多様体の場合に(部分的に)決定することに成功した。 本研究期間を通じて、自由ループ空間のホモロジー研究を推進したと同時に、新たな幾何学的研究アプローチを発見することが出来た。尚、栗林勝彦氏、若月駿氏、山口俊博氏との共同研究、及びCartan calculusとストリングトポロジーに関する研究成果は論文としてまとめ、学術雑誌に投稿中である。
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