研究実績の概要 |
本研究は無限次元タイヒミュラー空間上のWeil-Petersson計量の幾何学的性質を明らかにすることを目的とする. タイヒミュラー空間とは標識付きリーマン面の変形空間である. 特に, リーマン面がコンパクトでない場合, その空間の次元は無限となる. また, Weil-Petersson計量とは元来有限次元タイヒミュラー空間上で定義される標準的なエルミート計量のことである. 無限次元においては2乗可積分タイヒミュラー空間という, タイヒミュラー空間の部分空間上においてWeil-Petersson計量が定義できる. 近年, 有限次元の場合のWeil-Petersson計量の重要な性質(曲率の負値性など)と同じ結果が無限次元においても得られており, 本研究はその流れの中に位置する. 本年度はWeil-Petersson計量がFenchel-Nielsen座標を用いた二次形式で表現できるか(Wolpertの公式)について研究した. Fenchel-Nielsen座標とはタイヒミュラー空間に定まる大域的座標の1つで, リーマン面をパンツ分解したときの境界成分の長さおよび捩れのパラメータで構成される. Weil-Petersson計量が複素解析的な概念に対して, Fenchel-Nielsen座標は双曲幾何的な概念であるため, Wolpertの公式はこの相異なる概念を結びつける重要な公式である. 本年度は残念ながら目的の結果を達成できなかったと言わざるを得ない状況である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
与えられたリーマン面から相対コンパクトな部分領域の増大列を構成し, 極限操作によって無限次元の場合でもWolpertの公式を成立させるという研究手法で目的の達成に臨んだ. 各部分領域のタイヒミュラー空間は有限次元のため, Wolpertの公式が成立する. 極限操作により, 形式的な公式は得られたが, それがL^2-収束しているかが本質的な問題である. 複素解析, 函数解析などの分野の文献を調査しその問題の解決にあたったが, 芳しい結果が得られなかった次第である.
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