研究実績の概要 |
当該年度はまず藤田玄准教授(日本女子大), 三石史人助教(福岡大)との共同研究の最初の論文を完成させた. 前年度における課題であった低次元性を外し, 一般次元における symplectic 多様体の Gromov-Hausdorff 収束と対応する Delzant 多面体の収束の関係を限定された状況ではあるが明らかにした. その結果をまとめて arXiv に挙げて(arXiv:2003.02293), 現在雑誌に投稿中である. 限定された状況というのは距離空間の収束理論の言葉でいうと非崩壊極限の場合のみを考えていることに対応するので今後は崩壊するような状況下での symplectic 多様体の収束と Delzant 多面体の収束について話を進めて行く予定である. 次に池田正弘, 高井勇輝両氏(理研AIP, 慶應義塾大学)と共同で, ハイパーグラフ上の Ricci 曲率に関する研究を行なった. ハイパーグラフとはグラフにおける辺の概念を拡張したもので, ネットワークのモデルなど様々な応用がされている. 特に興味深いことに, Laplacian が通常のグラフとは違い非線形かつ多価の作用素として定義されている. グラフ上の Ricci 曲率の定義はいくつかあるが, その多くが Laplacian と密接な関係がある. その中でも coarse Ricci 曲率と呼ばれるランダムウォークを用いた曲率概念を拡張することを目標として共同研究をした. ハイパーグラフ上の Laplacian の非線形性や多価性を上手く回避するためにレゾルベントを用いることで曲率の定義, およびハイパーグラフ上の(非線形)熱流の挙動についての結果を得た. 現在論文を執筆中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では熱流に関する知見を得て, RCD 空間の解析を行う予定であった. しかしながら現在非線形の熱流についての研究を新たにしており, 目標には到達していない. しかし非線形の熱流は CD 空間などでは普通に出てくる対象であり, 熱流そのものへの理解を深めているところなので"やや遅れている"という区分が適当である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は先に述べたとおり, まず symplectic 多様体の Gromov-Hausdorff 収束の意味での崩壊極限に関する研究を行う. Symplectic 幾何学だけでなく, 凸解析など様々な知識が必要なのでそれらについて学んでいく. またこれらの知識はハイパーグラフの研究に関しても有用である. 特に劣モジュラー関数についての知識が必要であるので凸解析に関してはどんどん勉強していく必要がある. さらに現在進行中のもう一つの共同研究である RCD 空間の第一固有値に関する剛性定理では関数の勾配流を考える必要があり, 特に関数の正則性についての研究が必須であるのでそれについても研究を進める.
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