リーマン的曲率次元条件を満たす測度距離空間の幾何学で使われている手法をリーマン多様体での研究に応用するために熱流やラプラシアンについて研究を進めた。特に今年度はいわゆるワイルの法則についての研究を行った。ワイルの法則とはラプラシアンの固有値の漸近挙動に関する定理である。具体的にいえばラプラシアンの固有値は簡単にいえば次元の二分の一のオーダーで増加しており、その係数は多様体、ないし測度距離空間の体積であるというものである。 ユークリッド空間の適切な領域や閉リーマン多様体においてこの定理の成立が示されており、同様の定理が RCD 空間でも非常に緩やかな仮定の下で示されていた。当初その仮定は全ての RCD 空間で成り立つと考えられていたが、二次元以上のリッチ極限空間でワイルの法則が成り立たないものが存在することが最近示された。 残された問題は一次元の RCD 空間上でのワイルの法則の成立の可否である。そこで元学生の岩橋明美、米倉明里両氏との共同研究としてこの問題の肯定的な解決、すなわち何ら仮定なしにワイルの法則が一次元の RCD 空間において成り立つことが示せた。正確に言えば RCD 空間においてワイルの法則に出てくる固有値の増大度のオーダーが1より真に小さいことと RCD 空間が一次元であることが同値であることを示した。これは一次元の RCD 空間の新しい特徴付けであるのみならず、固有値の増大度のオーダーが真に二分の一より大きく1より小さい RCD 空間は存在しないというある種のギャップ定理にもなっている。
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