(1) 昨年度に引き続いて、離散調和写像の安定性について研究を行った。 偶数次元かつ正の断面曲率を持つ向き付け可能なリーマン多様体の中にはエネルギー安定な閉測地線は存在しないことが知られているが、閉測地線を有限グラフからの離散調和写像に拡張すると、このような非存在定理は一般には成り立たないことが最近になって指摘されている。従って、正または非負曲率を持つリーマン多様体の中に安定な離散調和写像が存在するかどうかを問うことは自然な問いと言える。 昨年度からの研究を通して、正の正則断面曲率を持つ単連結なコンパクト等質ケーラー多様体および、有向実グラスマン多様体を除く階数が3以下の単連結既約コンパクト対称空間に対しては、(非自明な)安定離散調和写像の非存在定理が成り立つことを示した。証明には、滑らかな調和写像に対して知られていた方法を改良したものを用いたが、コンパクト対称空間については、既存の方法が直接的には適用できないいくつかの場合があり、特にこれらの場合について深く考察を行った。結果的に、1つの例外を除き、階数が低い場合の非存在を証明する事ができた。以上の結果については、現在論文としてまとめているところである。 (2) ラグランジュ平均曲率流について研究を行った。特に、一般化されたラグランジュ平均曲率流について、より一般の状況下での基本的な性質の拡張について考察した。また、一般化されたラグランジュ平均曲率流が定義可能な非ケーラーなシンプレクティック多様体の具体例について調査を行い、いくつかの興味深い例を見つけることができた。 また、国際研究集会の運営に関わり、何人かの外国人研究者を招聘して、以上の研究に関して議論を行った。
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