研究実績の概要 |
今年度は主に格子気体とよばれる確率的粒子系について研究を行った. とくに粒子系の原点における占有時間に対して大偏差原理が成立するかという問題について研究をを行った. これはSeoul National UniversityのInsuk Seo氏との共同研究である. この問題は古典的な問題であるにも関わらず, まだ理解されてないことも多く残っている. とくに今年度は1次元の場合について研究を行い, ある程度一般的な格子気体に対して大偏差原理を示すための一般的な手法を開発することを目標にした. 研究の成果として格子気体に代表される, 速度変化を伴う対称単純排他過程や平均0の零距離過程について適用可能な手法を与えることができた. 具体的には流体力学極限に対する大偏差原理を用いて縮約原理を適用する形で占有時間に対して大偏差原理を証明した. この際問題となるのは占有時間はある種非特異な関数であるため, ``replacement lemma''とよばれる局所エルゴード性を示しただけでは不十分である. この問題を粒子系に対するエネルギー評価を全面的に援用する形で解決した. 占有時間に対する大偏差原理を示す上でこのような構造は本質的に思えるが, これまでの研究ではまだ明らかにされてはいなかった. また, 占有時間に対する大偏差原理の問題とは別に, 東北大学の田中亮吉氏とともに反応拡散模型の混合時間に対する相転移の問題や, Instituto National de Pura e AplicadaのClaudio Landim氏とともに反応拡散模型の準安定性の問題についても取り組んだ.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
占有時間に対する大偏差原理を示す一般的な手法を与えたことは, 大きな成果であった. しかしながら論文にまとめることが残っているため, 現在の目下の課題はこの作業である. また, まだ完成には遠いものの, 上述の混合時間の問題や準安定性の問題についても着実に成果を重ねているため, 研究は順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
まずはSeo氏との共同研究を論文としてまとめることが目下の課題である. その後は得られた成果の発展や, 別の問題への応用について取り組む予定である. またこのことと並行して混合時間の問題と準安定性の問題についても取り組む予定である. どちらの問題についても反応拡散模型に対する動的な大偏差原理が問題の中で大きな役割を果たすと想定しているため, まずはその方策に従って研究を進める予定である. しかしながら後者の問題はとくに容易ではないと考えているため, 令和3年度中の完成を視野に研究を進める予定である.
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