研究実績の概要 |
令和2年度は, 主に以下の1), 2)について研究を行った. 1)WKB解のリサージェンス性について WKB解のリサージェンス性は, リサージェンス理論の黎明期からの大きな問題となっているが, 今尚明確にされていない. このWKB解のリサージェンス性を示すべく, 反復積分による表示を用いて考察を行ったが, 問題点ばかりが浮き彫りになる形となった. 特に「動かない特異点」と呼ばれる, ストークス幾何の退化に関連して現れる特異点の生成メカニズムが上手く説明できていない状況である. この証明の方針は, J. Ecalle 氏による証明のアイディアと本質的に同じだが, このような素朴な方法でWKB解のリサージェンス性を示すのは難しいように感じている. 2)Connes-Kreimer Hopf 代数を用いた Mould 解析について 昨年度もConnes-Kreimer Hopf 代数を用いた Mould 解析の研究を行なったが, そこでは Borel 平面上の特異点が「単純な特異点」だけになるための条件を付けていた. 本年度はこの条件を除き, 一般の特異点が現れるような場合の Mould 解析について考察を行った. この場合には, 考えている作用素に応じた Poincare-Dulac 標準形を考える必要があるが, この作用素を解く際にどのような特異点が生成されるかは明らかになった. しかし, 今まで行ってきたリサージェンス理論に関する研究の枠組みでは, 単純な特異点だけを持つ場合を念頭において行ってきたため, この枠組み自体を拡張する必要性が生じている.
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今後の研究の推進方策 |
1)WKB解のリサージェンス性について 今年度用いた方法は, 積分方程式から Neumann 級数を作り解析を行うという素朴な方法であったが, この方針で研究を進めていくのは難しいように感じている. この方針では, Neumann 級数展開からストークス現象を読み解くという方向性だが, これとは逆に, ストークス現象に合わせて展開を行う必要があるように思われる. このためには, WKB解析版の Mould 解析のような, ストークス幾何の構造を上手く解析に読み込む手法が必要だと考えている. 今後は, このような解析手法の確立を目指して研究を行いたい. 2)Connes-Kreimer Hopf 代数を用いた Mould 解析について 一般の特異点を持つ場合には, 合成積によりどのような特異点が生成されるかや, その関数の評価など,大域的な問題がまだ残っているが, 現在の方針で進めていけば解決可能と思われる.
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