研究課題/領域番号 |
18K13428
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
蛭子 彰仁 千葉工業大学, 情報科学部, 助教 (70772672)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 差分方程式の不変量 / 超幾何級数 / 特殊値 / 隣接関係式 / Fuchs型方程式 / Dotsenko-Fateev 方程式 |
研究実績の概要 |
超幾何関数は多くの良い性質を持つが故に様々な分野に現れる。特に超幾何関数の特殊値を用いて多くの量が表されている。本研究は、特殊値の構造解明、及びその応用を目標としている。とりわけ本年度は応用面の研究を重点的に行った。 線形微分方程式の級数解を構成するとき、その係数は線型差分方程式を満たす。しかし、この差分方程式は一般に高階のため解くことはできない。それ故、与えられた線型差分方程式に対し、級数解を明示的に構成することは難しい。そこで次のように取り組んでみることにする。超幾何関数の特殊値はパラメータに関する高階線型差分方程式を満たす(これを隣接関係式という)ことに着目し、その差分方程式と元々考えていた級数解の係数の満たす差分方程式とを見比べるのである。見比べるための道具として以前導入した差分方程式の不変量を使うことで、級数解の係数が超幾何関数の特殊値を用いて表せるかどうか調べられるようになった。原岡喜重・金子昌信・落合啓之・佐々木武・吉田正章との共同研究において、この試みをDotsenko-Fateev方程式に適用することで、その級数解が一般化超幾何多項式4F3(1)で書けることを発見した。また、上記共同研究では、自己随伴性を持ったある種の良い4階線形微分方程式も考え、その級数解を同様の方法で導出した。更に、それら級数解の表示を見ることで、この4階微分方程式・Dotsenko-Fateev方程式・Gaussの超幾何微分方程式のテンソル積がmiddle convolutionで繋がることを発見した。以上の結果を纏めた論文を現在投稿中である。 既によく分かっているGaussの超幾何微分方程式の性質を用いることで、この新しい4階微分方程式・Dotsenko-Fateev方程式の性質が今後明らかになると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、超幾何関数の値の基礎的研究を通し、Dotsenko-Fateev方程式等の特別な微分方程式の級数解が明示的に構成できた。この1つの応用は当初想定していなかったことで、計画以上に進んだと言える面もある。 しかし、計画通りに進んでいない面もある。前出した差分方程式の不変量について、応用先として最初に考えたのは、超幾何関数の変換公式の導出であった。超幾何関数の満たす隣接関係式(差分方程式)を2つ用意して、不変量を用いて見比べることによって、差分方程式の解である超幾何関数同士を繋げようとしたのである。この試みはある意味成功している。実際、超幾何関数の代数変換と呼ばれる変換公式の1種は全てこの手法で導出できることが示せている。また、例を通し、この手法で特殊値の変換公式を導出できることも見ている(ただし、この手法で全ての変換公式が導出できることは示せていない)。このように強力な導出法について、詳細を述べつつ、そこから得られた変換公式を表にした物を論文として纏めるのが中期的な目標である。しかし、この導出法は未だ計算効率が悪く、計算機に頼ってもメモリがパンクすることもあるため、この計画を今すぐ実行することはできない。この計算効率を良くするための方策を考えることが本年度の1つの計画であったが、遂行できないままであった。 このように計画通りに進んでいない面もあるため、研究計画は「おおむね順調に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度計画以上に進展した研究については更にその先を、計画通り進まなかったものに関しては引き続き残った所を遂行していく予定である。 本年度の研究で、Dotsenko-Fateev方程式の級数解が構成できた。しかしその後、上記共同研究者達との研究で、Dotsenko-Fateev方程式を含む良い線型微分方程式が発見された。今後は、この級数解が同様に不変量を用いて構成できるかどうか調査する予定である。また、この共同研究の副産物として、(直交多項式の1つである)Wilson多項式の満たす差分方程式のパラメータを連続化した場合の解の構成にも成功している。この結果も論文として纏める予定である。 次に、計画通り進まなかった、超幾何関数の変換公式の導出法の改善計画を引き続き遂行していく。この導出法の計算効率を上げるためには、隣接関係式を理解する必要がある。本年度は、隣接関係式についての知識を一度整理することを計画していたが、他の研究が進展していたこともあり、遂行できないままに終わった。そこで、今後改めてこの計画を実行する予定である。その後、その纏めた知識を用いて変換公式の導出法を改善していくことも目標としたい。
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