本年度は、以下の(1)、(2)を行った。 (1) 応用上、超幾何関数の近似値を求めることは重要である。そのために、超幾何関数の(比の)「良い」近似であるパデ近似(有理関数による近似)が古くから考察されてきた。ただし、まとまった文献はこれまでなかったため、以前解明した隣接関係式の構造を用いて、超幾何関数(の比)のパデ近似を系統的に導出した。これにより、例えば、第一種と第二種完全楕円積分の比のパデ近似も得られる。この結果は、基礎分野である超越数論とも関係する。超越数論への応用として、川島誠(日本大学)と共同で研究を行った。 (2) 「超幾何関数が別の超幾何関数で表される公式 」のことを変換公式と言う。その中でも代数変換公式は円周率の数値計算などへの応用から19世紀以来研究されてきたが、ガウスの超幾何関数2F1の場合ですら新たに見つかることがある。これは、既存の研究は微分方程式論からの考察であり、代数変換公式の系統的な導出には困難が伴うためである。この困難を解決するため、数年前、差分方程式からのアプローチを開発した。本年度は前段階として、多変数数超幾何関数(AppellのF1)に適用し、その代数変換公式もまた組織的に導出可能であることの検証を行った。この結果を研究集会「特殊多様体・特殊関数研究会」にて発表した。
本研究では、超幾何関数の値の構造の解明、及びその成果の応用を目標とした。前者に対する大きな進展は得られなかったが、(1)のように将来進展が見込まれる結果は幾つか得られた。一方、後者に対しては大きな進展があった:線形差分方程式に対し不変量を導入し、それを用いて、与えられた線形差分方程式が超幾何関数の値を用いて表されるか検索できるようになった。これにより、例えば、未解明のFuchs型微分方程式の級数解の一般項を構成することに成功した。また、(2)のような応用も生まれた。
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