研究課題/領域番号 |
18K13435
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 龍一 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特任研究員 (20802599)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非線形境界条件 / 多孔質媒質方程式 / 移流拡散 / 粘性解 |
研究実績の概要 |
今年度は主に,非線形移流拡散方程式の適切性,完全非線形放物型連立系の非自明時間大域解の存在および非存在に関する研究を行った. 非線形移流拡散方程式の適切性については,初期値の空間を一様局所Lebesgue空間に設定し,初期値の空間局所的な特異性,空間遠方で減衰しない状況を想定した.既存の研究では方程式の持つ質量保存性を用いた解析手法が多く用いられており,そのためには初期値は空間遠方で十分に減衰しているものでなければならなかった.この研究では空間遠方で初期値が減衰しない場合も含めた設定で初期値問題の適切性を示したものである.手法としては,熱方程式の解に対する一様局所Lebesgueノルム評価をうまく用いて,特に尺度臨界な空間では適当な補助空間を設定して存在および一意性について論じた.この結果は学術論文として投稿し,掲載が決定した. 完全非線形放物型連立系の非自明時間大域解の存在および非存在に関する研究については,主要部が完全非線形な放物型方程式の連立系を考える.さらに低階の非線形項として優線形な冪乗型の項を持つものを想定する.主要部が線形の場合はすでにさまざまな結果が知られており,主要部が非線形であっても発散型の場合は超関数の意味での弱解として扱うことができるため,解析の手立てがある.しかし,主要部が完全非線形の場合は線形または発散型非線形な場合に有効であった手法がほとんど機能しなくなる.本研究では粘性解の理論を援用することで時間大域解が存在するための十分条件を得ることに成功した.一方で時間大域解の非存在に関する条件はさらなる困難があり,現在も研究を進めている段階である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究対象であった非線形境界条件を持つ放物型方程式の解析を行うためにさまざまな考察を行っていく中で,境界条件は方程式とともに導出される条件であるという研究結果に出会った.さらに考察を進める中で,境界条件を理解するためには方程式の主要部がさまざまな場合について研究を進める必要があることに気がついたので,一見遠回りに見えるが,これまで研究があまりなされていない方程式について研究することになった.結果的に.当初想定していた内容よりはるかに多くの問題を発見し,またそれらの関係性について理解が深まる状況となった.これは研究全体としては良い状況になっていると考えられる.一方で,非線形境界条件を持つ方程式自体の研究は進展が少ないところは難点である. 視野が広がったことで,完全非線形方程式を研究対象としたため,進捗はかなり遅れてきているが,その代わり新たな研究手法なども得ることができているため,研究全体の進捗としてはプラスに働いていると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は当初の予定に回帰しつつ,新しく得た知見を織り交ぜた研究を推進していきたいと考えている.具体的には.非線形な境界条件を持つ完全非線形方程式を研究対象としたいと考えている.主要部が発散型の場合,Neumann境界条件は比較的素直に考えることができる.しかし,主要部が完全非線形な場合はそもそもNeumann境界条件に相当するものがなんであるかを考えることから始めなければならない.そこで,主要部と境界条件の関係についての考察を進め,また,ここで考察するものはすでによく知られた発散型の場合を自然に拡張したものとなるような設定を発見したいと考えている. 他方,当初の研究計画にある非線形境界条件を持つ多孔質媒質型方程式の研究を進めていく予定である.特に,解の存在と一意性の問題で,一意性を保証するための自然な条件を特定したいと考えている.さらに,解の爆発等についての研究も進めたい.例えば,領域が特徴的な形状を持っている場合解の爆発にどのような影響を及ぼすかについて考えたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスによる世界的な危機的状況により,海外出張および国内出張がほぼ行えなくなった.また,研究環境の移動に伴い,研究に関連する物品も購入することができない状況になっていたため,当初予定していた使用計画と差異が生じた. 次年度はこの危機的状況を脱して通常通りの研究活動が再開できれば今年度に計画されていた通りに使用できると考えている.
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