離散可積分系についての研究を、代数的手法による可積分性判定法という観点から行った。用いた主な道具は、特異点閉じ込めテスト、代数的エントロピー(次数増大)、Laurent性(Laurent現象)、既約性、互いに素条件(coprimeness)などである。主な目的は、差分方程式の次数増大を求めるための統一的な手法の開発である。 1. 特異点閉じ込めのパターンから直接方程式の次数増大を計算する手法について調べた。前年度の研究の結果、この手法によって偏差分方程式の次数増大を予想することができるということは分かっていた。今年度は、この手法によって得られる次数が厳密であることを証明することを目指した。その結果、この手法によって次数が厳密に計算できることを、いくつかの具体的な方程式に対して示すことができた。なお、この手法を用いる際には大域的な特異点パターンの特定が必要になるが、その部分には互いに素条件から得られる情報を用いた。 2. 自励系方程式をうまく非自励化した際、導入した非自励係数の増大度が方程式の次数増大と関連するという予想について研究をした。既にこのような具体例は数多く得られていたので、ここでは、ある程度一般的な状況での予想の解決を目指した。その結果、初期値空間を持つ2階の常差分方程式に対して、初期値空間の反標準因子(anti-canonical divisor)が有効(effective)となる場合、周期写像(period map)を用いることで、この予想を解決することができた。
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