研究実績の概要 |
結晶成長を記述する発展方程式の導出とその解析を行った. とりわけ, 曲率の効果と結晶方位差, 三重点の影響を取り込んだ結晶粒界の発展方程式を, エネルギー消散の立場から導出し, その発展方程式の数学解析を行った. まず, 曲率の効果を緩和させた常微分方程式系の解析を行った. Yekaterina Epshteyn氏とChun Liu氏との共同研究により, 結晶粒界エネルギーとして, 結晶方位差についての線形化方程式となるものを取り上げ, 得られた微分方程式の定常問題を考え, その定常解まわりでの時間局所可解性を示した. さらに, 定常解に十分近い解の時間大域可解性と, 定常解の指数漸近安定性, すなわち, 大域解が指数オーダーで定常解に漸近することを示した. 次に, 曲率の効果を取り込むために, 曲率の効果と結晶方位差を取り込んだ問題を定式化し, 結晶粒界をグラフとみなすことで, 偏微分方程式系を導いた. 得られた方程式は, 時間依存するモビリティをもった曲率流方程式であり, 曲率効果を等方的に仮定したとしても, 興味ある問題である. 高棹圭介氏との共同研究により, 得られた偏微分方程式の可解性と時刻無限大における漸近挙動を考察した. 可解性を得るために必要となる, 先験的勾配評価を導出するために, 時間依存するモビリティに対応した重み付き単調性公式を導出した. 重み付き単調性公式から最大値原理を導出することにより, 先験的勾配評価と, 結晶成長に由来する偏微分方程式の可解性と時刻無限大における漸近挙動を導いた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
曲率の効果を緩和させ, 具体的なエネルギー密度関数によって得られた常微分方程式系の時間局所可解性は, Yekaterina Epshteyn 氏とChun Liu 氏との共同論文として, 査読付き雑誌に投稿中である. この, 具体的なエネルギー密度関数は, エネルギーの結晶方位差についての線形化問題でもあるため, 最も典型的な密度関数であった. 当初の予定では, このモデルに曲率の効果を加えたマルチスケールモデルを考えるつもりであったため, この問題の基礎である, 結晶粒界に結晶方位差の影響を加えた, 内部問題の先験評価や可解性を高棹氏と議論した. この研究の結果, 内部問題について先験評価や可解性が得られるための, エネルギー密度関数の十分条件を導出した. このエネルギー密度の一般化と数学解析における条件の導出について, もともとは2019年度に解析する予定であったが, 本年度で導出することができた. さらに高棹氏と, 曲率と結晶方位差を加えた, 単結晶問題における, 一般化された解の存在について議論を行った. これも, 当初より計画を前倒しして研究を進めることができた.
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今後の研究の推進方策 |
Herring条件を加えた曲率と結晶方位差の効果を取り込んだネットワーク解の構成を行う. 高棹氏との共同研究で得られた結晶粒界エネルギーの条件をもとにして, ネットワーク解の問題設定と, そのネットワーク解の時間局所可解性, 大域可解性と漸近挙動を調べる. 特に, 漸近挙動として, 三重点におけるエネルギーのつりあい, Herring条件が時間無限大でどのような挙動をするかについて調べる. また, 単結晶におけるBrakke解の構成を行う. 高棹氏との議論により, 単結晶の結晶成長問題については, Brakke解と呼ばれる幾何学的測度論を用いた弱解の定式化と, そのBrakke解の構成ができることがわかった. そこで, Brakke解による単結晶の結晶成長問題をもとにして, 三重点にHerring条件を課した多結晶の成長問題をBrakke解で定式化できるかどうか, Brakke解が構成できるかを考察する. 他方で, Herring条件を動的条件におきかえた問題は, 動的境界条件と関係が深く, 三重点におけるエネルギー消散が加速されることが問題を困難にすることがわかった. そこで, 動的境界条件のついた定常問題をもとにして, 三重点の解析手法を新たに構築することを考える.
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