研究課題/領域番号 |
18K13446
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
水野 将司 日本大学, 理工学部, 准教授 (80609545)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 結晶成長 / 曲率流方程式 / 幾何学的変分問題 / Fokker-Planck方程式 |
研究実績の概要 |
昨年度にひき続き, 結晶成長に由来する幾何学的発展方程式の解析を行った. Yekaterina Epshteyn 氏と Chun Liu 氏と共同で研究している, 発展方程式のモデリングと曲率の効果を緩和した問題の適切性, 長時間挙動に関する研究は, 査読雑誌への掲載が決定した. この緩和問題において, 結晶の消滅が及ぼす特異性を揺動係数のついた Wiener 過程によるノイズとみなし, 結晶方位差と三重点に関する確率微分方程式を考察した. 伊藤解析により, 確率微分方程式の解の密度関数はある Fokker-Planck 方程式をみたすことがわかる. この Fokker-Planck 方程式が消散構造を持つための, 揺動係数と散逸係数の条件である揺動散逸定理を導き, この条件下における Fokker-Planck 方程式の長時間挙動を重み付き二乗可積分空間の枠組みで行った. そして, 三重点を平均化した周辺確率分布を解析することで, 三重点の角度と結晶方位差, 結晶粒界エネルギーに関する新しい公式を導出した. この公式は結晶成長問題の数値計算とエネルギー密度関数の妥当性を見積ることに有用であると考えられる. 髙棹圭介氏と共同で研究した, 曲率と結晶方位差の効果による, モビリティが時間依存する曲率流方程式の適切性, 長時間挙動について, 査読雑誌への掲載が決定した. この問題を発展させて, 三重点を加えた, モビリティが時間依存する曲率流方程式のネットワーク解の時間局所可解性, 長時間挙動を可香谷隆氏, 高棹圭介氏と共同で行っている. Solonnikov の線形放物型方程式系理論を用いた可解性, エネルギー法と Poincare 型不等式を組み合わせた長時間挙動の解析を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶方位差を考慮した, 結晶成長モデルについての古典解の範疇におけるネットワーク解の時間局所存在と, 平衡状態まわりでの大域存在, 長時間挙動はおおよその結果がまとまっており, 発表のために準備を行っている. 現時点では, 三重点には平衡状態の条件である Herring 条件を課して研究を行っているが, この研究のアイデアは動的三重点条件においても拡張可能と考えられる. 三重点や結晶が消滅するなどの特異性を取り込んだ問題として, 幾何学的測度論を用いた弱解の研究を計画していた. 共同研究者との議論により, 消滅を Wiener 過程を用いてノイズとみなした, 確率微分方程式によるモデリングを行うことができたことから, この確率微分方程式の研究を進めることで特異性の解析を進めた. とりわけ, Wiener 過程における揺動係数と, 結晶方位差や三重点に対する散逸係数との関係, 結晶粒界の三重点でのなす角と結晶方位差, 結晶粒界エネルギーとの関係が得られており, 発表に向けて準備中である.
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今後の研究の推進方策 |
確率微分方程式の重み付き二乗可積分空間における, Yekaterina Epshteyn 氏と Chun Liu 氏との共同研究は, 2021年度中の発表に向けて準備が進んでいる. 本研究の重み付き二乗可積分空間における解析は, 材料科学の数理物理学を用いた意義深い方法である一方, 拡散現象の立場からみると適切とはいえない. なぜなら, 対応する Fokker-Planck 方程式は質量保存則をみたすため, 可積分関数のなす空間で考えることが自然だからである. このことは共同研究者とすでに認識が進んでおり, Bakry-Emery によるエントロピー消散法を用いた解析を進める予定である. この方法を使うにあたっては, 対数 Sobolev 不等式や Csiszar-Kullback-Pinsker の不等式などエントロピーを評価することが重要となる. 重み付き二乗可積分空間の結果も踏まえて, 可積分関数のなす空間における Fokker-Planck 方程式の解析を推進する. また, 動的三重点を課した結晶成長モデルの古典解の範疇におけるネットワーク解の存在, 長時間挙動を研究する. Solonnikov の線形放物型方程式系理論は, 時間発展をともなう境界条件にも適用可能と考えられる. 動的三重点, 動的境界条件を課した結晶成長モデルのネットワーク解やグラフ解の存在や長時間挙動, 境界挙動を研究する.
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次年度使用額が生じた理由 |
感染拡大を予防するために, 参加予定の国際研究集会や研究打ち合わせが延期, オンライン参加となったことにより, 海外, 国内の旅費を執行することができなかった. 来年度は, 数値計算を行うための計算機, 知見の深化を進めるための専門書籍, 電子資料の購入に充てる.
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備考 |
掲載が決定した査読付き雑誌論文が3件あるが、いずれも校正前、かつ発行年が確定していないため、次年度以降に記載する。
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