研究課題/領域番号 |
18K13452
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研究機関 | サレジオ工業高等専門学校 |
研究代表者 |
須志田 隆道 サレジオ工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (00751158)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 葉序 / ボロノイ図 / 連分数展開 / 複素力学系 |
研究実績の概要 |
今年度は大きく2つの取り組みを実施した。1つ目は(1)一般アルキメデス螺旋格子のボロノイタイリングにおけるボロノイ領域の面積についての数学的研究である。2つ目は(2)ハイパー演算子による複素点列の性質を調べる計算機援用型の研究である。今年度の取り組み(1)では、山岸義和氏(龍谷大学)とJ-F Sadoc氏(パ第11大学)の共同研究として、螺旋の間隔のパラメータαと点列における回転角θの2つのパラメータに依存する一般アルキメデス螺旋格子を母点集合とするボロノイタイリングにおけるボロノイ領域の面積をパラメータαに応じた分類を行った。回転角θの連分数展開における部分商が有界であるとき、点列の番号が十分大きいところで、α>1/2であれば面積は発散、α=1/2であれば面積はπに収束、0<α<1/2であれば面積は0に収束することを数学的に示した。 今年度の取り組み(2)では、米華真典氏(サレジオ工業高等専門学校専攻科)との共同研究として、Church(1904)やG. van Iterson(1907)が扱った対数螺旋格子を拡張したハイパー4演算子(超冪乗)による複素点列に関する計算機援用型の研究を行った。対数螺旋格子はハイパー演算子と呼ばれるもので分類すると、ハイパー3演算子(冪乗)と位置付けられている。超冪乗点列は1つの複素数を固定すると点列が決まるというものであり、対数螺旋格子と同じであるが、点列としては大きく異なる点がある。固定する複素数によっては、複数のクラスタを形成するということである。対数螺旋格子では、1つの螺旋模様しか得られない。本研究では、超冪乗点列が作り出す複数のクラスタが収束する場合において、各クラスタにおける回転角が同じ値に収束することを示した。さらに、数値計算を用いて、クラスタ数3以上を作る場合は、同じ回転角に収束する複素数が複数個あることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は研究代表者の所属変更に伴い、学生指導および教育活動に慣れず、これまで通りに研究業務を遂行することができなかった。一方で、学生指導を行うために今年度の取り組みの(2)に該当する内容を実施できたことは、これまで研究代表者が扱ってきた葉序螺旋の幾何学モデルの数学的拡張に位置付けられるもので、その数学的な性質を網羅的に調べるという新しい展開を生み出したため、有益であった。次年度から、今年度の取り組み(1)に該当する内容の論文完成を目指し、(2)で実施したことを足掛かりにして、対数螺旋格子やフェルマー螺旋格子などの葉序螺旋に関連する点列をターゲットにして、2点間距離で定義されるエネルギー関数の最小化問題の解として得られる点配置について数学的な研究に取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、一般アルキメデス螺旋格子のボロノイタイリングの面積以外の網羅的な幾何学的性質をまとめた論文の投稿に向けた活動を最優先に行う。さらに、葉序螺旋の形成過程を説明する数理モデルの研究に進め、葉序螺旋で扱われてきた理想的な点配置(対数螺旋格子やフェルマー螺旋格子など)が細胞挙動を考慮した数理モデルにおいて、どのような条件下で出現しうるかを見出す研究に取り組む。また、今年度の取り組み(2)で扱ったハイパー4演算子による複素点列(超冪乗点列)において、クラスタサイズを評価する関数を定義し、エネルギー最小化問題を取り扱う。事前調査の結果として、超冪乗点列において最もエネルギーが最小になる(クラスタサイズが最も小さくなる)自明な複素数は1であるが、1の近傍におけるエネルギー評価を数学的に行うことに成功し、エネルギー分布を示す関数形を具体的に記述できている。また、数値計算を行うことにより、クラスタ数を考慮に入れたエネルギー関数に対するエネルギー分布図を図示することには成功している。次年度では、現在得られている知見をもとにして、各クラスタを収束点と点の距離の最大値で正規化した点列を考え、その点列において定義される2点間距離によるエネルギー関数(葉序螺旋の分野では、Levitovらが考えたものと同一のもの)について、数値計算を援用し、どのようなエネルギーの分布図が得られるかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は所属研究機関の変更に伴い、研究遂行のために時間を要してしまったことから、次年度以降に本格的な研究再開を行うことにしたため、研究費の次年度使用額が生じた。一方で、今度の数理モデルに関する研究展開で必要になる計算機群の購入を行うことができ、数理モデルの定性的な振る舞いを網羅的に調べるための計算機環境は整っている。次年度使用額は、一般アルキメデス螺旋のボロノイタイリングの論文の英文校閲料や投稿料に用いる予定である。
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