研究実績の概要 |
今年度の目標は、すでに得られている研究成果の公表であった。実際、昨年度までの成果として得られている結果の多くを学術雑誌の論文として公表することが出来た。 特に、複雑形状流路内における微小遊泳体の数値計算に関する課題を学術論文として出版することができた[Ishimoto et al. Front Cell Dev Biol, 2024]。微小スケールの流れ(ストークス流れ)を数値的に精度良く解く場合には、境界要素法を用いることが多いが、その場合境界の数値メッシュを生成する必要がある。ここでは、最近接正則化ストークス法と呼ばれる手法を用いることによって、メッシュ生成をなくし、境界を点群(これらのつながり方の情報はいらない)として表現している。受精現象に現れる問題設定では、このような複雑形状を取り扱う必要が出てくる。ただし、現状では、物体と境界の接触過程を取り込む適切な方法がないため、人工的なカットオフをモデルに課す必要性が出てくる点は今後の課題と言える。 また、研究期間で得られた成果の包括的なレビュー論文を発表することもできた[Ishimoto, J Phys Soc Jpn, 2024]。この論文では、微小スケールの流体力学の基本的な内容から、特に背景に流れがあるような場面における運動について、基礎的な理論から、実験結果との比較、それらの背景にある数理的な構造についてまとめている。精子の走流性に現れる、数理モデルにおける力学系的な視点についても、他の微生物運動と合わせて報告している。
|