2020年度には、複数の周期性のある現象ついて、関連性の検証や予測といった分析に応用可能な多変量円周上分布であるトーラス上分布についての研究を行った。はじめに、複雑な関数を用いることのないシンプルなモデル構成が可能な正弦相関トーラス上分布族の提案を行った。この分布族においては、コピュラ法から構成される分布によくみられるような計算上コストの問題が軽減されるため、推定や検定が容易に行うことができる利点がある。また、変量間の相関をコントロールするパラメータが他の平均や分散パラメータとは独立に推定できる性質を持っているため、情報損失のないモデリングが可能となる利点もある。この分布族を利用したゲノム間共有遺伝子の存在位置に関するデータへの応用といった研究成果については、国内発表統計関連学会連合大会で発表を行っており、現在論文雑誌に投稿中である。 上記の正弦相関トーラス上分布族やAbe and Pewsey (2011)による正弦歪円周上分布族を拡張したモデリングや、多変量シリンダー上分布の構成法の提案も行っている。これらの分布は、拡張前の分布よりもモーメントの計算が困難となる可能性があるが、柔軟なデータ当てはめが可能となる利点がある。また、モデル推定における識別性や一致性の証明から当てはめた分布の解釈においての利点となることも示している。この研究については現在論文雑誌に投稿中である。 その他にも、シンプルな円周上分布であるカージオイド分布の積から構成される分布やその分布を多変量化した分布も提案している。この分布は、データの歪度や尖度、峰の個数に柔軟に対応できる分布となっている。また線形領域のパラメータ空間を有しているため、ニュートン法のようなシンプルなアルゴリズムを取り入れたモデル推定が可能となる利点もある分布となっている。この研究についても現在論文雑誌に投稿中である。
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