最終年度は高密度粒子系のせん断変形に見られるせん断応力の揺らぎに注目して研究を行った。まず、分子動力学法を用いた数値シミュレーションにより、ランダムな粒子系のせん断変形を再現する。ここで、粒子密度はジャミング転移点よりも大きく設定し、粒子系はせん断変形によって塑性を示す様な状況を想定している。初期状態において粒子系のせん断応力はほぼゼロだが、せん断歪みの増大に伴って徐々に大きくなり、降伏点を超えると平均値の周りで揺らぐ様になる。シミュレーションでは粒子系のせん断応力をダイレクトに測定できるため、降伏点に至るまでの増大や、降伏点を超えた後の定常状態まで再現されているのを確認することができる。本研究で注目したのは定常状態におけるせん断応力の揺らぎであり、特にせん断応力が急降下するアバランチという現象に焦点を当てて解析を行った。ここで、せん断応力が急降下するといっても個々の粒子が破壊される訳ではなく、せん断歪みを加えることによるエネルギー増加を緩和させるため、内部の粒子が配置替えをするのが主な要因である。アバランチはせん断応力の落差で定量化されることが多いが、その他にも急降下の持続時間や降下速度の最大値なども重要な指標である。また、アバランチによってエネルギーが解放されることは地震現象とも類似しているため、防災など応用の観点からも重要である。そこで、地震に関連して実際の地面を構成する土砂に近い粉体のモデルを分子動力学法に適用し、特に粒子間の摩擦力の強さがせん断応力の落差や持続時間および降下速度の最大値などにどの様な影響を与えるかを明らかにした。また、これらの分布関数が理論予測とどの程度一致するかを精査した。 最後に、研究期間全体を通して研究はおおむね順調に進展し、高密度粒子系の非局所的レオロジー、応力緩和、音波特性、拡散現象、アバランチなど、様々な物性に関する新しい見解が得られた。
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