本研究は,量子系における可積分性が非平衡状態にある系の物理的振る舞いに与える影響を調べることを目的とし,以下の成果を得た. 非平衡状態にある量子系の振る舞いを特徴付ける量として,カレントに着目した.カレントが弾道的であるかどうかは,系がもつ保存量により決定されることが既存研究により知られている.そこでまず,本研究が対象とする異方的ハイゼンベルグスピン鎖がもつ保存量を構成した(1年目).構成した保存量が準局所性をもつこと,およびスピン反転対称性をもたないことを示した.保存量を構成する際に導入する補助空間の選択により無限種類の保存量を構成することができるが,そのうち線型独立なものは有限種類であることを示した. つぎに,保存量を用いて異方的ハイゼンベルグスピン鎖の物理的な特徴を調べた.スピン反転対称性を持たない保存量がスピンカレントの弾道性に寄与すること,およびそのドルーデ重率の上限が線型独立なもので達成されることを示した.さらに,異方的ハイゼンベルグスピン鎖の定常状態を特徴付ける密度関数と保存量との関係を,可積分性を用いて導いた.これにより,線型独立な保存量のみを用いて異方的ハイゼンベルグスピン鎖の定常状態を記述できることを示した(2年目). また,異方的ハイゼンベルグスピン鎖の両端に散逸の付いた開放系について,定常状態におけるカレントの振舞いに可積分性がどのように影響するか調べた(最終年度).特に,バルクに局所不純物のある場合に着目し,行列積の形の定常状態が厳密に構成できる条件を明らかにした.厳密な定常状態が求まる可解な模型では,定常状態におけるスピンカレントが不純物の影響を受けないことを示した.さらに,不純物により可積分性が壊れる場合にスピンカレントが不純物の影響で変化することを数値的に示し,スピンカレントのロバスト性は可積分性に由来することを明らかにした.
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