本研究課題では、なるべく性能を犠牲にせずに量子鍵配送の装置モデルをより現実に即するよう拡張し、実験によって確認できるデータを用いて安全性を保証することを目的とする。本研究課題で行うことは、現実との乖離が大きいモデルの仮定を乖離の少ない仮定に置き換えていくという作業であり、完全な解をいきなり目指すというよりは影響の大きなものから順次対処していくというものになる。本研究では、特に媒体として光を用いる場合における送信機と受信機に集中して研究を進める。 2020年に引き続き、2021年度も光子検出器の検出効率にばらつきがある場合について扱った。本年度は具体的な有限長鍵長公式を書き下して証明もした。この結果については、現在実験の共同研究者と議論して論文化作業を進めている。 2021年度は、量子鍵配送の様々な不完全性を同時に取り込んで数値的に鍵効率を最適化し、それに自動的に有限長の安全性証明がつく枠組みを構築した。単独要因ではなく、様々な不完全性を同時に扱うモデルでは内部パラメータが増大し、人の直感による性能向上には限界がでてくる。そのため、数値的手法を考える動機はこれまでもあり、先行研究も存在した。しかし、それらは実験時間を無限とした極限での性能を予想するものであり、現実の実験に適用できなかった。今回の結果は有限長といわれる現実の実験時間に対応できる鍵効率公式と安全性証明になっており、現実的な状況で数値的手法による性能改善を導入できるようになった。この結果は論文化して論文誌に投稿中である。
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