巨視的な長さスケールの長距離量子もつれは、真に非自明な量子効果を解明するための重要な鍵を提供する。一方で、量子もつれは一般的に超低温下でないと壊れてしまうことが知られている。この点に関する超重要な未解決の問題として「室温下でも巨視的な長さスケールの量子もつれは存在できるのか?」という問題がある。この素朴な疑問は、さまざまな立場の研究者から大きな関心を持たれており、情報理論、計算機科学、物理学を繋げる重要な課題である。 上記問題への取り組みには、主に、i) 長距離量子もつれを持つ量子熱平衡状態のクラスを見つける、ii) 長距離量子もつれの存在に関するNo-go定理を確立する、という2つの方向性がある。前者では、4次元量子多体系が室温で長距離もつれを持つことが確認されている。後者の方向でも、量子もつれの普遍的な法則を理解するために、膨大な数の数値的・理論的研究が行われてきたが、現在までに量子もつれの普遍的な性質を研究する理論的枠組みは一つとして存在しない。これは、i) 低温物理学の難しさ、ii) 量子もつれの数学的構造の難解さ、という二つの大きな壁が原因となっている。 本研究では、全く新しい方法論を用いてこの壁を打ち破り、1/T (T:温度)の距離を超えると、二者間のエンタングルメントが指数関数的に減衰することを証明した。本結果は、任意の次元、任意の温度でありとあらゆる量子多体系に適用される極めて一般的なものである。この結果は、長距離の量子もつれが、有限温度では必ず(三者間以上の)量子もつれの形でしか生き残らないことを示す。これは、これまでに観測された有限温度の長距離量子もつれが、三者間相関に関連したトポロジカル秩序によって生じているという観測結果をサポートするものになっている。 この結果はQIP2022での口頭講演に選ばれ、またPhysical Review Xに掲載された。
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