研究課題
本研究では、温度変化によって常誘電体から強誘電体への相転移が生じるジメチルビピリジンヨーダニル酸塩[H-55DMBP][Hia]を対象として研究を行った。この物質では、転移点近傍では、水素結合中のプロトンがπ電子系や分子骨格と相互作用しながら集団的に揺らいでいると考えられている。[H-55DMBP][Hia]の低温相において、テラヘルツポンプ-SHGプローブ測定を行った結果、テラヘルツパルス照射後のSHG強度変化には顕著な振動成分が観測された。265Kにおいては、420kV/cmのテラヘルツ電場強度で、約8%のSHGの強度変化が観測された。これは、約4%の分極変化に対応する。テラヘルツ電場パルスは試料表面で減衰するため、この値は、過小評価した値である。また、温度依存性を測定することによって、テラヘルツ電場パルスによる分極変調が集団モードの共鳴励起によるものであることを明らかにした。さらに、集団モードの周波数が転移点に向けてソフト化することが分かった。これは、本研究によって初めて明らかにしたことである。秩序・無秩序型の強誘電体であると考えられている[H-55DMBP][Hia]において、変位型強誘電体の特徴であるソフトモードが現れるという、非常に興味深い結果が得られた。このように、ポンプ―プローブ測定に基づいた本研究手法は、定常分光では測定できないような情報を取得する手段として有用であり、他の物質のソフトモードの研究にも応用することができると期待される。
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固体物理
巻: 54 ページ: 649-671
応用物理学会誌
巻: 88 ページ: 105-109
http://pete.k.u-tokyo.ac.jp