研究課題/領域番号 |
18K13479
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
鈴木 はるか (丹治はるか) 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 准教授 (40638631)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 共振器量子電気力学 / 冷却原子 / Rydberg状態 |
研究実績の概要 |
令和元年度には、原子のレーザー冷却およびRydberg励起用の光源の構築と、共振器ミラーの特性評価法の検討を行った。 まず、原子のレーザー冷却に必要な磁場を発生させるコイルおよびその制御回路の構築を行った。高効率な単一光子発生のためには、原子の冷却および捕捉に用いる磁気光学トラップ(MOT)の磁場を、単一光子発生の試行時に速やかに消失させる必要がある。そこでコイルに流れる電流を高速に切断するための回路を構築し、その特性評価を行った。その結果、130 μsで磁場を消失させることができた。これは原子の散逸時間より十分に短く、当初の目的を達せられたといえる。 一方、平成30年度に漏れが生じた真空チャンバーについて、令和元年度は、漏れを修復した上でさらに共振器導入部分のガラスセルを設置し、再度ベーキングを行った結果、真空度は9.7x10^(-10) Torr に達し、原子のレーザー冷却に必要な真空度が得られた。そこで、チャンバー側面に上述のコイルを設置した上で、周囲にMOT用の光学系を構築した。さらに、Rb原子をチャンバー中に導入し、その遷移周波数に対して安定化させたレーザー光を入射して原子のトラップを試みた結果、原子からの蛍光が磁場のオン・オフとともに明滅する様子を観測することができた。 Rydberg励起用光源については、波長480 nmのレーザー光の出力光強度の評価方法を改善した結果、目標とする強度に達していないことが判明したため、第二高調波発生用のbow-tie型光共振器の光軸の最適化を行った。また、第二高調波発生用の非線形結晶の温度調整機構の不具合を修復し、温度安定性を高めた。一方、単一光子の発生効率を最大化させるための各種パラメータの条件出しを進めた。 光共振器については、低反射・低損失ミラーの特性評価を既存の方法で行うことが困難であることが判明したため、その新たな評価法についての理論的な検討に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度には、平成30年度に発生した真空装置の不具合を修復した上で、それにより生じた遅れを取り戻すことができた。具体的には、まず、共振器導入部であるガラスセルの設置を行い、ベーキングを経て十分な真空度を得た。さらに真空中への原子を導入した上で、光源の安定化、光学系の構築を完了させた結果、磁場の有無による原子からの蛍光の変化を観測することができた。また、Rydberg励起用光源の光学系の改良を行った結果、前年度よりも高強度の出力を得ることが可能になった。これらにより、冷却原子のRydberg励起を行うための準備がおおむね整った。 一方、光共振器に関しては、従来行われてきた共振器ミラーの特性評価の方法が、透過率が損失率を大幅に上回る低反射・低損失ミラーにはそのまま適用することができないことが判明した。そこで、このようなミラーの特性評価を行うための新たな手法について検討を進めている。 上記に加え、現状の光源で最大の単一光子発生確率を得ることができる条件も明らかになりつつあることから、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和二年度には、まず磁気光学トラップ(MOT)を完成させ、トラップ中の原子密度の評価とその最大化を行う。さらに、レーザー冷却された原子に対して波長480 nmと780 nmの二種類のレーザー光を入射させ、Rydberg状態の生成とその観測を目指す。 また、Rydberg状態のスペクトルを利用して、780 nmの光源に対する480 nmの光源の安定化を行う。 光共振器については、まず低反射・低損失ミラーの特性評価法を確立し、実際に特性評価を行う。続いて、このミラーと高反射低損失ミラーを組み合わせることにより非対称共振器を構築し、まずは大気中でその特性評価を行う。さらに、構築した共振器を真空チャンバー中へ導入し、この共振器と原子との結合を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、発注していた光学機器の構成部品の調達が間に合わず、年度内に納品されなかったため。当該機器は今年度既に納品されており、当該助成金はその経費として使用する。
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