研究課題/領域番号 |
18K13480
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中島 秀太 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (70625160)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 冷却原子 / 光格子 / トポロジカル量子系 / 量子光学 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、冷却原子系の高度な制御性、特にフェッシュバッハ共鳴による相互作用制御を利用することで、相互作用により誘起されるトポロジカル相転移の観測を目指しており、1).相互作用可変な極低温リチウム(Li)原子系および光超格子系の構築、および2).トポロジカル量子ポンプに対する相互作用の効果の検証、の2つを主たる目標としている。 当該年度はまず1).の極低温Li原子系を構築することを目標として研究を遂行した。当該年度中にLi原子のレーザー冷却光源の準備、レーザー光源の周波数安定化のための分光用チャンバーおよび周波数ロックシステム、超高真空チャンバー系を構築し、極低温Li原子集団を冷却・捕獲する準備が整った。 また、先行研究において我々はトポロジカル量子ポンプの実験を光超格子中のイッテルビウム(Yb)原子を用いて行なってきたが、Yb原子は基底状態に対して磁場フェッシュバッハ共鳴による相互作用制御が使えないため本研究課題にはあまり適さない。しかし、光格子の深さ自体を変えることで、相互作用誘起トポロジカル相転移の実効的なパラメータ群をある程度制御できる。そこで、当該年度では、2).と関連してYb原子系において光格子深さ自体を変えて相対的に相互作用の影響を制御することで相転移の観測を目指した。その結果、Yb原子系では原子間相互作用がそれほど大きくないため、有限温度などの影響が無視できず明確には相転移を観測することは出来なかったが、相互作用の有無で、トポロジカル量子ポンプが破れる光格子深さに違いが出ることが確認できた。これは、斥力相互作用によるMott転移がギャップを小さくすることで起きる非断熱効果の違いを見たものと期待され、Li原子系を用いて(磁場フェッシュバッハ共鳴によって)相互作用がより大きい領域で実験を行なえば、より明確な形で相転移が観測できると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、当該年度は主として極低温Li原子系を構築することを目標として研究を遂行した。研究開始時点においては、光学定盤とテスト光源以外はほぼ何もない状況であり、そこから約1年間で光源、超高真空チャンバー系を構築し、極低温Li原子集団を冷却・捕獲する準備を整えたことは、当該研究分野の実験進捗スピードとしては標準的なものと考える(また当該年度中には間に合わなかったが、2019年4月中に6Li原子の2次元磁気光学トラップに成功しており、レーザー冷却・捕獲についておおむね順調に進んでいると言える)。 また、このトポロジカル量子ポンプにおける相互作用誘起トポロジカル相転移はM. Nakagawa et al.(PRB, 2018)の論文で予想されているものであるが、この理論はゼロ温度での計算であり、現実の実験のような有限温度の系で、実際に何が起こるかは自明ではなかった。研究実績の概要で述べたように、当該年度、光格子中のYb原子を用いた実験で、(明確な相転移は見えなかったものの)相互作用の有無でトポロジカル量子ポンプの振る舞いに違いが見えたことは、有限温度の系においても(理論が示唆するように)相互作用が強い領域ではトポロジカル量子ポンプが破れる可能性を示唆しており、今後実際にLi原子の系で実験した際には、実現可能なパラメータ範囲でトポロジカル相転移が起きることが期待される。当初計画では、極低温Li原子集団が準備できない限り相互作用の効果を見ることは難しいと考えていたが、今回Yb原子を用いてある程度、示唆的な実験結果が得られたことは、本研究課題を進める上で重要な進捗であると言える。これらを合わせて考えると、当該年度についてはおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、まずは計画通り、相互作用可変な極低温リチウム(Li)原子系および光超格子系の構築を進めていく。2019年5月現在、6Li原子の2次元磁気光学トラップまで実現しており、今後はこの2次元磁気光学トラップされた原子集団を、3次元磁気光学トラップへ移行、さらに光トラップに移して蒸発冷却を進め、Li原子の量子縮退状態を実現する。また早期に、磁場フェッシュバッハ共鳴による相互作用制御を実現する。また蒸発冷却により量子縮退状態が実現されたら速やかに光格子系の構築を進める。また、研究の遂行を早めるために、磁場フェッシュバッハ共鳴実現のためのコイルなど一部装置については外注することも検討する。 一方、冷却原子系の実験装置の立ち上げ段階では、パラメータ探索に時間がかかるなどのトラブルで想定以上の時間がかかることも十分にあり得る。2018年度の研究から、相互作用の制御が難しいYb原子の系においても、光格子の深さなど相互作用「以外」のパラメータを相対的に制御することで、ある程度は実効的に相互作用を制御し、その効果によりトポロジカル相転移に付随する効果を観測しうることが分かったので、今後は上記の極低温Li原子系の構築を進めると共に、Yb原子を用いた実験を通じて相互作用効果に由来する現象を観測することも目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度当初の2018年度分の直接経費は総額で120万円であったが、「若手研究における独立基盤形成支援(試行)」事業に採択されたことで、科研費から150万円、運営費の方からも150万円の補助がなされた。この補助の大部分は備品(波長計)の購入に充てられたが、これにより研究全体の予算について余裕が出来たために、2018年度分の一部は使用せずに2019年度に回すよう変更した。特に、当初計画では予算節約のために自作で対応する予定の物品(磁場フェッシュバッハ用コイル)について、研究をより速やかに遂行するため外注するよう2018年12月頃に計画を変更した。その発注時期が2018年度末、納品が年度をまたぐ可能性があったため、基金である当該科研費の2018年度分を残していたが、このコイルに電流を供給する大電流直流電源装置(JSTさきがけ予算で購入)の納品が3月末に、この電源を使用できるようにする工事が2019年4月まで延びたことで、コイルの発注自体が遅れ、結局2019年度としての取り扱いとなった。2019年度の使用予定としては、当初予定通りの実験系構築のための光学部品等に使用することに加え、上記のように研究をより速やかに遂行するため、一部を実験装置の外注予算として使用予定である。
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