本研究課題では、冷却原子系の高度な制御性、特にフェッシュバッハ共鳴による相互作用制御を利用することで、相互作用により誘起されるトポロジカル相転移の観測を目指しており、1).相互作用可変な極低温リチウム(Li)原子系および光超格子系の構築、および2).トポロジカル量子ポンプに対する相互作用の効果の検証、の2つを主たる目標としている。 当該年度は前年度に引き続き1).の極低温Li原子系の構築を進めた。当該年度中にLi原子のレーザー冷却(2次元磁気光学トラップ)まで実現し、また光格子の実験を遂行する舞台となるガラスセルの取り付けも完了し、今後の実験に必要となる超高真空環境の構築が完了した。また相互作用を制御する磁場フェッシュバッハ共鳴のための強磁場生成コイルと周辺回路の準備も並行して進めた。 また先行研究において我々はトポロジカル量子ポンプの実験を光超格子中のイッテルビウム(Yb)原子を用いて行なってきた。前年度は、2).と関連してYb原子系において光格子深さ自体を変えて相対的に相互作用の影響を制御することで相転移の観測を目指したが、フェッシュバッハ共鳴と比べ相互作用を調整できる範囲が小さく、相互作用に由来すると思われる小さなポンプ量の変化を観測するにとどまった。一方、近年、相互作用ではなく「乱れ」により誘起される非自明なトポロジカル相(トポロジカルAnderson絶縁体相など)が注目を集めており、当該年度は相互作用に代わりこの「乱れ」により誘起される非自明なトポロジカル相を、我々のYb原子のトポロジカル量子ポンプ系において実現することを試みた。その結果、異なるRice-Meleパラメータをもつトポロジカル量子ポンプを組み合わせることで、準周期的な乱れに対して非自明なポンプを示すトポロジカル量子ポンプ系を見出した。この結果は日本物理学会で発表し、また現在、論文を投稿準備中である。
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