研究課題
光パラメトリック下方変換を用いた光子対生成の周波数多重化に関する研究を行った。周波数多重光子対光源は非線形光学結晶を光共振器内に配置することで実現できる。これまでの周波数多重化光源の実験では、光子対のシグナル光とアイドラ光の両方を閉じ込めた二重共鳴共振器、あるいはさらに励起光を閉じ込めた三重共鳴共振器を用いて行われていた。本研究では、これまでの実験とは異なり、光子対のシグナル光のみ閉じ込めた単共鳴共振器を用いて周波数多重光子対生成実験を行った。単共鳴共振器ではアイドラ光子に共鳴構造がないにも関わらず、エネルギー保存則によって、多重共鳴共振器を用いて生成される光子対と同様に、アイドラ光子も共振器に閉じ込められているかのようなコム状スペクトルを持つ。また、多重共鳴共振器で報告されているクラスター効果(エネルギー保存と共鳴条件の不一致による光子対生成の抑制効果)が単共鳴構造の場合には生じないため、広帯域に渡って密な光子対生成が可能になるという特長をもつ。実験では、非線形光学結晶としてPPLN導波路を用いた。導波路両端に対して、1600nm付近のシグナル光に対して高反射コートを施し、1522nm付近のアイドラ光と780nmの励起光に対して無反射コートとなるように誘電体多層膜を施し、ファブリーペロー型の共振器を形成した。このPPLN導波路共振器から生成される光子対の同時計数の時間分解測定をしたところ、共振器のFSRに相当するおよそ3.5GHzの振動周期をもつ同時計数が観測された。これは、光子対が確かにFSR間隔で生成されていることを意味する。また、1520nmから1600nmまでの領域で生成光子数を計測したところ、期待した通りクラスター効果は見られず、広帯域に渡って周波数分離された光子対が生成されていることが確認された。
2: おおむね順調に進展している
単共鳴型の導波路共振器については設計からのスタートであったが、当初予定していた通り、周波数多重光源の実証実験まで行うことができた。実験結果は設計値、理論値とよく整合しており、狙い通りの結果を得た。現在、単共鳴型の導波路共振器を用いた光源を発展させ、周波数多重エンタングルメント光源の実証実験の準備にも既に着手している。また、別に用意した二重共鳴型の導波路共振器を併用した周波数自由度の量子操作を行うための準備も行っている最中であり、当初の予定通り順調に進展していると考えている。
本年度に実現した周波数多重光源を周波数多重エンタングルメント光源に発展させる。また、周波数多重化された光子対を用いた周波数自由度の量子操作の実証を目指す。これら実験を行うための準備には既に着手しており、十分遂行できると考えている。徐々に操作する光子数や次元を拡大していき、系の大規模化を目指す。
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