本研究では、単一光子間の和周波発生(SFG)を用いた量子もつれ交換高度化の世界初の原理検証実験を目指し研究を行った。この目標を達成するためには、(i)量子もつれ光子対の高効率な生成・検出システムの確立と、(ii)高効率かつ安定なSFGモジュールの開発が必要である。(i)については、当研究室で立ち上げた繰り返し周波数3.2GHzのモードロックレーザで周期分極反転ニオブ酸リチウム導波路(PPLN/W)を励起することで、量子もつれの質を落とすことなく、高速な光子対生成が可能となった。具体的には、忠実度88%の量子もつれ光子対を1.6MHzのレートで検出することに成功した。この成果については現在論文を執筆中である。(ii)については、結晶長65mmのPPLN/Wをサニャック干渉計へ組み込んだ構成によって実現した。レーザ光を用いて第二高調波発生の変換効率を推定したところ変換効率は1129 [%/W]となり、高効率なSFGモジュールが開発できた。さらに、(i)の光子対源へ励起光とシグナル光を入力して差周波発生(DFG)を行い、得られたDFG光をSFGモジュールへ79%の効率で結合させることに成功した。単一光子レベルのSFGの観測は次年度中に実施できる見込みである。また、線形光学素子を使った通常の量子もつれ交換を行った場合について、装置無依存量子鍵配送の鍵レートの限界を理論と実験の両面から調査した論文を、学術雑誌New journal of physicsに発表した。この結果より、線形光学素子を用いた量子もつれ交換では、終状態に対するベル不等式の破れが最大でも2.34程度に留まることが分かった。SFGモジュールによる量子もつれ交換高度化が達成されれば、より大きいベル不等式の破れが観測できると予想される。
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