研究課題/領域番号 |
18K13490
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
星野 晋太郎 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (90748394)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 非従来型電子秩序 / 軌道秩序 / フラーレン |
研究実績の概要 |
有益な物質機能を設計する上で電子相関から生じる磁気・軌道・多極子や超伝導物性を理解することは重要課題である。そのためには、現実物質に即した電子構造に基づいた理論によって強相関電子系の振る舞いを議論することが必要である。特に本研究では電子系の秩序化に注目する。通常、磁性や軌道整列のような電子系の秩序化においては、局所的な1体の物理量で秩序変数を記述することができる。一方、このような従来の考え方では理解することができない電子秩序(非従来型電子秩序)も存在している。本研究は現実物質に即して、非従来型電子秩序の特徴的物性を明らかにすることを目的とする。 フラーレン超伝導体では、実験的に異常金属状態(ヤーン・テラー金属)の存在が指摘されている。先行研究では、フラーレンの特徴を捉えたモデル系において、非従来型の軌道秩序が実現していることが提案された。本研究ではさらにフラーレン化合物のバンド構造を反映させた上でこの軌道秩序状態を考慮し、秩序変数として時空非一様なものを考える必要性があることを明らかにした。さらに輸送係数の計算を実行することにより、(1)空間非一様な秩序変数が伝導度の非等方性に影響し、元来3次元的な振る舞いを示すものを2次元的に変えること、(2)時間非一様な秩序変数(=周波数依存性を持つ)のために光学伝導度の異方性が周波数に強く依存することを明らかにした。 さらに、フラーレン物質の物理に関連して研究対象は広がりを見せており、非平衡状態の研究も進展した。実験において光励起することにより、転移温度よりも高温側(T>Tc)で超伝導的振る舞いが観測されている。このことに動機づけられ、T>Tcにおける光励起系で超伝導揺らぎの特徴的振る舞いをGL理論に基づいて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、これまでモデル系で理解が進展してきたフラーレン化合物におけるヤーン・テラー金属(1年目)と多軌道系特有のスピン三重項超伝導(1・2年目)について、現実的なバンド構造に基づいて議論することを掲げた。前者については実績概要で記述したようにその輸送特性を明らかにできており、さらに本フラーレン系を念頭に置いた光励起系の研究にも広がっている。後者のスピン三重項超伝導についても、ルテニウム酸化物を念頭において、多軌道系特有の応答を議論するための見通しを立てることができている。
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今後の研究の推進方策 |
多軌道系特有のスピン三重項超伝導について、ルテニウム酸化物の現実的なバンド構造を考慮して応答関数などの物理量を議論する。相関効果を扱うために動的平均場理論を用いた計算や、低エネルギーを記述する有効ハミルトニアンを用いた計算によって超伝導の発現可能性や特徴的応答を調べる。 また、重い電子系特有の非従来型電子秩序の実現可能性およびその応答特性を、PrやU化合物の現実的な伝導バンド構造を用いて調べる。また、重い電子系とフラーレン系の非従来型電子秩序とのつながりについても議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
効率的に計算を実行するために計算機を導入したが、当初計画していた規模のものを予定よりも安価に導入することができた。その差額を、次年度にさらに多くの計算機資源を導入するために使用額として計上した。翌年度分と合わせて、新規に計算機を導入して計算力を増強することや、既存の計算機のメモリ拡充や故障時の対応費用などのメンテナンス費用に充てる。
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