研究課題/領域番号 |
18K13496
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 祥子 東京大学, 低温センター, 特任助教 (00726317)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヒッグスモード / 超伝導体 / 秩序変数 / 集団励起 / テラヘルツ / 低温 / 物性物理学 |
研究実績の概要 |
超伝導秩序変数のヒッグスモードは、超伝導の秩序変数を調べる新しいプローブとして注目されている。ヒッグスモードは電気分極や磁気分極を伴わないので、高強度テラヘルツ光源を用いた非線形測定によって観測されてきたが、最近、超伝導電流を注入すると、比較的弱いテラヘルツ光源を用いた光学伝導度測定でもヒッグスモードが観測できることが理論的に示された。 そこで、これまでに非線形励起を用いた過渡応答や第三高調波の実験や、対応する理論計算が行われてきた、いわば標準的な試料と言える第2種のs波超伝導体である窒化ニオブ(NbN)の薄膜について、直流電流を注入しながら透過配置の光学伝導度測定を行ったところ、超伝導ギャップ端のエネルギーにおいて、超伝導秩序変数のヒッグスモードに起因するピークを観測した。観測されたピークの偏光依存性や電流依存性は理論予測に合致しており、ピークの強度について、超伝導体の各種パラメータを用いた現実的な計算を行ったところ、実験結果とオーダーで一致する結果が得られた。 測定温度を、超伝導転移温度に向けて上昇させていくと、超伝導ギャップの縮小に伴い、ピークの中心エネルギーも縮小した。やや厚くて超伝導ギャップの大きな試料では、ピークの中心エネルギーも大きい方にシフトした。このようなギャップとピーク中心の対応関係は、過去の実験・理論計算から知られている、超伝導秩序変数のヒッグスモードの特徴である。 以上のように、電流注入下の光学伝導度測定によって超伝導秩序変数のヒッグスモードを観測するという手法の有効性を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画のとおり、電流注入法によるヒッグスモード観測の有効性を、標準的な試料であるNbN薄膜について実証した。この研究成果をまとめた論文は、現在査読中である。 また、この過程で、明らかになった、電流注入によるジュール発熱や、低い測定周波数でS/N比が低下するという実験的な問題が明らかになった。これらは、次年度に計画している他の超伝導体への応用において、転移温度の極近傍や、電流による発熱が生じる磁束フロー状態での高精度測定時に問題となりえたが、温度制御系やテラヘルツ光学系の改善によって、それぞれ解決することができた。
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今後の研究の推進方策 |
超伝導秩序変数のヒッグスモードは、超流動密度の振動と読み替えることができる。すなわち、電流注入下のNbN薄膜においては、入射テラヘルツ波と同じ周波数で超流動密度が振動していることとなる。ロンドン方程式によると、超流動密度の振動と入射テラヘルツ波によるベクトルポテンシャルの振動の積で超伝導電流が誘起される。この電流は、入射テラヘルツ波の倍の周波数ので振動し、第2高調波を放射することが期待されるので、その測定を行う。なお、これは入射電場に対して高次の効果なので、前年度の光学伝導度測定において用いた弱いテラヘルツ波ではなく、狭帯域化した強いテラヘルツ波を用いる。 また、s波超伝導体のヒッグスモードの観測に有効であることが実証された電流注入下での光学伝導度測定を、d波の対称性を有する銅酸化物超伝導体についても試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に行う偏光測定の自動化を見こしてワイヤーグリッド偏光子を4枚と波長板を購入する予定だったが、初年度に行った手動測定では既存の偏光子・波長板が使用できたので、実際に自動化を行う際に購入することにしたため、次年度使用額が生じた。次年度に、計画どおり使用する予定である。
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