研究課題
本研究では、光誘起に伴う物質中における新奇な相の探索を、高温超伝導をはじめとする量子物質を対象に、高次高調波時間分解光電子分光法とテラヘルツ時間領域分光法を用いて行ってきた。鉄系超伝導体FeSeにおいては、ガンマ点に存在する正孔バンドとM点に存在する電子バンドでのキャリアダイナミクスを詳細に観測することに成功した。その結果、光励起により、電子が正孔バンドから電子バンドに移行され、それに伴い、顕著な格子変調が起こることを明らかにした。さらに詳細な解析から、超伝導ギャップのような信号を取得することに成功し、光励起状態が非常に長く、1ns程度持続することも明らかにした。一方、その他の量子物質として、励起子絶縁体の候補物質であるTa2NiSe5において、光励起により新奇な金属相を観測することに成功した。観測された金属相は、温度変化では起こりえない、光誘起特有の相であることが明らかになった。さらに詳細な測定と解析の結果、金属化に大きく関与する格子振動を特定することに成功した。一方、励起子絶縁体としての性質に着目すると、時間応答の測定から、Ta2NiSe5が励起子絶縁体特有の振舞を示すことを解明し、この物質が励起子絶縁体としてより有力な証拠を提示することに成功した。さらに、準結晶2層グラフェンにおける、層に依存したキャリアダイナミクスを詳細に観測することに成功し、超高速な時間領域でキャリア数が2層間で不均衡になる振舞を発見し、超高速デバイスの可能性について提示することに成功した。得られた一連の研究結果により、令和元年度において、主著2本を含む計3本の学術誌への掲載、国際会議における1件の招待講演と1件のポスター賞受賞、さらに国内学会における6件の発表をすることに成功した。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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