鉄系超伝導体FeSe単結晶の磁気トルク測定を行った。FeSeはフェルミエネルギーに対して超伝導ギャップが異常に大きく、BCS-BECクロスオーバー領域にある超伝導体として注目されている。マイクロカンチレバー(0.2N/m)と光干渉変位検出を組み合わせた手法を用いた。この手法により市販のピエゾ抵抗型カンチレバーでは難しかった、1テスラ以下の磁場領域での精密測定と、全磁化信号からの揺らぎ信号の正確な抽出が可能になった。 結果、以下のことが明らかになった。FeSeの超伝導揺らぎ由来の磁化変化は、強磁場領域で大きくなり、10テスラの磁場では超伝導転移温度の約1.6倍の温度から観測された。これは過去に銅酸化物超伝導体で観測されている振る舞いと定性的に近い。先行研究ではBCS-BECクロスオーバーによる巨大な超伝導揺らぎ(最大で全磁化の10%程度)が観測されたとの報告もなされていた。しかし、我々の結果では揺らぎ磁化は最大でも全磁化の0.5%であった。FeSeのギンツブルグ数が0.1のオーダーであることを考慮すると、GL理論でも説明が可能である。 今後、測定を他の物質に拡張していくにあたり、新たな手法開発を進めている。マイクロカンチレバーと光干渉変位検出を組み合わせた方法は、強磁場では技術的な困難が生じる場合があるので、その点をクリアするために、メンブレン型デバイスによるトルク測定法を新たに導入することを計画している。現在、カンタムデザイン社のPPMS内で測定できるように調整している。
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