研究課題/領域番号 |
18K13504
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
岡崎 竜二 東京理科大学, 理工学部物理学科, 准教授 (50599602)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 熱電効果 / ゼーベック係数 / 非線形伝導 |
研究実績の概要 |
本研究では、通常のバンド絶縁体に加えて、電子相関効果が本質的に重要なモット絶縁体や電荷秩序絶縁体などの強相関絶縁体の非線形効果を伝導現象の観点から探索することを目的としている。非線形伝導は本質的に非平衡状態において生じるため、これらの非線形現象の解明は、固体物理学だけでなく、未開拓の非平衡統計力学分野への橋渡しとなることが期待される。 本年度は、それらの物質群における内因的な非線形効果を明らかにするため、外因要素となりうる発熱の影響を最小限に留めるための実験方法の開発を進めてきた。外因的な効果とは、通常の物質の電気抵抗率は試料温度に依存するため、電流を試料に流して発熱が生じた場合、発熱によって見かけの電気抵抗率が変化してしまう現象のことであり、これにより発熱による電気抵抗率の変化を非線形伝導として捉えてしまう恐れが常に存在している。実際にこれまでの多くの研究においても、非線形伝導の報告ののちに、発熱による影響の追試実験がなされており、この発熱の影響をじゅうぶんに議論し、取り除く必要がある。 そこで、通常は大電流を試料に印加し、非線形領域まで測定をおこなうところ、本年度は高調波測定を用いて発熱の無視できるじゅうぶんに小さな電流によって非線形測定を行うことができる測定システムの開発を進めた。通常の電気抵抗率測定の場合には、試料に基本波を与え、試料から生じる基本波の電圧を測定するのに対し、この測定システムでは、与えた基本波に対して、試料から発生する高調波を測定することにより、非線形成分の検出を行うことができる。本年度は、この測定システムの立ち上げを行い、通常の金属試料についてテスト測定を行った。また、発熱の大きさを別の手法でも見積もるため、数ミクロンの微粒子を用いた温度測定法の開発も行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、発熱を無視できるじゅうぶんに小さな電流によって非線形測定を進めるため、高調波測定による非線形伝導測定システムの開発を進めた。この測定システムでは、多出力ファンクションジェネレータから同期信号およびその高調波信号を発生させて、精密交流電流やロックインアンプに入力することで、試料に与えた基本波に対して、試料から発生する高調波を精密に測定することができる。また、周波数や次数などの測定パラメータの変更も容易である。 本年度は、この測定システムの立ち上げを行い、通常の金属薄膜試料を用いてテスト測定を行った。テストとしては、あえて交流の大電流を印加することで、高調波として発生する発熱成分の評価を行った。この手法は、薄膜の熱伝導率を測定可能なスリーオメガ法と原理は同一である。この結果より、数mK程度の発熱であってもじゅうぶんに検知することができることを確認でき、この測定データをベースにして、試料に与える電流の大きさの指標を得ることができた。この結果は、日本物理学会の年次大会で発表を行った(ただし、コロナウイルス感染症の影響により現地での開催はなし)。 また、発熱の大きさを別の手法でも見積もるため、数ミクロンの微粒子を用いた温度測定法の開発も行った。これは輸送測定と回折測定を組み合わせたものであり、独立に行った赤外線による非接触の温度計測の結果とも定量的に良い一致を得ることができた。本結果は、KEKのグループとの共同研究として、論文発表を行った。今後も、いくつかの相補的な温度計測手法を組み合わせ、信頼度の高い実験データを提供していくことが、この非線形測定の実験分野として重要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現状の高調波測定は、電気抵抗率のみの測定であるため、今後は温度勾配も別の周波数で与え、非線形熱電輸送現象について明らかにしていく予定である。なお、その場合には熱の印加になるため、与える周波数は数mHzの低周波数を考えている。それぞれの周波数応答を別々にロックインアンプに通すことにより、精度良く電気抵抗率やゼーベック係数を評価することができると考えられる。また、ロックインアンプを用いた測定の場合、周波数依存性の測定において、時間的制約が大きいため、測定精度としては劣るが広範囲の周波数測定を同時に行うものとして、フーリエ変換による評価も行う予定である。ただし、測定周波数領域としては電気抵抗の場合でも数キロヘルツ以下の低周波領域であるため、高電圧分解能のオシロスコープのFFT機能を併用していく予定である。 測定試料としては、すでに予備的測定を進めているが、強相関電子系のうち電荷秩序絶縁体やモット絶縁体を考えている。電荷秩序絶縁体については、これまでに多くの非線形伝導が報告されている有機物を考えており、協力研究者からすでに試料の提供を受けている。まずは、発熱の影響を最小限に抑えた高調波法により非線形伝導測定を進める予定である。モット絶縁体としてはルテニウム酸化物や銅酸化物高温超伝導体も考えており、それらの試料についてもすでに試料提供を受けている。このうち、銅酸化物高温超伝導体については、電荷秩序の形成も指摘されている擬ギャップ相においても測定を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の学会の現地開催が中止となったため、旅費に未使用額が生じた。本年度出張費に充てる予定であるが、現在に於いてもコロナウイルス感染症の収束時期などは未定であり、その際には消耗品等に充てる予定である。
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